第2話 リーゼとミツバ
帝都での反乱後。
北部に逃げたゴードンを追撃していたリーゼは、帝都に戻ってきていた。
いつまでも東部国境を空けるわけにはいかなかったからだ。
それでもすぐに東部国境に戻らなかったのは理由があった。
「リーゼ姉様!!」
「クリスタ、元気にしていたか?」
「うん!!」
駆け寄ってくる妹、クリスタを抱き上げ、リーゼは珍しく優し気な笑みを浮かべた。
東部国境に腰を据えてから、帝都に帰ってくることは滅多になくなった。
意図せぬ帰還だったが、それでも大きくなった妹の重さがリーゼには嬉しかった。
そんなリーゼはすぐにクリスタをおろし、椅子に座って姉妹の再会を見守っていたミツバに頭を下げた。
「ご無沙汰しております、義母上。挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。いつもクリスタがお世話になっています。私が東部にいられるのも義母上がおられるからです」
「そんなに堅苦しい挨拶をされると居心地が悪いわね。母が娘を育てるのは当然よ。そうよね? クリスタ」
「うん!」
クリスタは笑顔で返事をしながら、ミツバの下へと駆け寄る。
二人に血縁関係はない。
それでもその姿は母子そのものだった。
実の母を早くに失ったクリスタにとって、ミツバが母なのだ。その姿を見るたびに、リーゼは心からの感謝が溢れてきていた。
「感謝します……義母上」
「感謝だなんて。家族だもの。当然でしょ? さぁ、座って。あなたも疲れているでしょう? 私とクリスタでお菓子を焼いたのよ」
「リーゼ姉様のために練習したの……!!」
「それは楽しみだ」
そう言ってリーゼは椅子に座って、机の上に広がるお菓子に手を伸ばす。
どれも好みのものばかりだ。
まだリーゼとクリスタの実母である第二妃が生きていた頃、よく作ってくれたものばかり。
帰ってくる度にミツバはそれをリーゼに作っていた。
なるべく第二妃の味を再現して。
その心遣いがリーゼには嬉しかった。
「またすぐ東部に行ってしまうの? リーゼ姉様」
「そうだな。いつまでも留守にはできんからな」
「もう少しいてもいいのに……」
「いてやりたい気持ちはやまやまだが……帝都には有能なものがたくさんいる。だが、東部はそういうわけにはいかん。私がいなければ困る者がいるのだ」
「それは噂のラインフェルト公爵かしら? あなたが留守を任せるなんて、ずいぶん信頼しているのね?」
「そうですね……信頼しています。昔、それはそうなのですが……アルのおかげでより信頼できるとわかりました」
「あら? あの子もなかなかやるわね。自分のこととなるとさっぱりなのに」
ミツバはため息を吐く。
それに対して、クリスタは沈んだ表情を浮かべていた。
「アル兄様……寝たまま……早く起きてほしい」
「そのうち起きる。心配するな。あれは私の弟だ。起きなければいけないときは起きるだろう」
「そうね。今回は頑張ったし、しばらく寝かしておいてあげましょう、クリスタ」
「仕方ない……我慢する」
二人に言われてクリスタはお菓子に手を伸ばして、食べ始めた。
そんなクリスタを微笑まし気に見つめながら、リーゼはふとつぶやいた。
「義母上、一つ、頼まれていただけませんか?」
「ラインフェルト公爵との結婚かしら? あなたもそろそろ身を固めてもいい頃だものね。私からそれとなく陛下に伝えておくわ。そういう想いがあると知れば、陛下も受け入れやすいでしょう。時期については自分で決めればいいわ。私はいつでも母として出席する気満々よ」
「……義母上にはかないませんね。感謝します」
「忘れないでちょうだい。私はクリスタの母であり、あなたの母でもあるのよ? なんでもお見通しなんだから」
そう言ってミツバはニッコリと笑い、リーゼが一番好むお菓子を差し出した。
リーゼは苦笑しながら、それを受け取るのだった。
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