適当に怪文書2
えままん
テーマ「妄想性障害」
友達が死んだよ。死因は窒息死。犯人はまだ見つかってない。だからまだ近所のおばさん達は噂話を続けている。でもね、僕見ちゃったんだ。犯人の姿。それは美しい青年だったんだ。手付きは慣れていて、友達の首に音もなくロープを引っ掛けたかと思うと、その瞬間、ミシミシッと骨や筋肉がきしむ音が聞こえた。そして次第にカヒュー、カヒュー、と友達が酸素を求めるように鳴き声をあげた。もうすぐ友達は死ぬ。直感がそう告げていた。にも関わらず、僕は止めさせる事が出来なかった。というよりも、しなかった。何故なら、音が心地よかったからなんだ。それと、友達が生を求めて足掻き、もがいている、その姿に感動したからなんだ。まるで1つの芸術作品、言うなればミュージカルを見ているようで、僕はそれをずっと見ていたかったんだ。でも友達はすぐに死んじゃった。僕はつまらなさを覚えたけど、それを上回る程の興奮の余韻が体に染み渡ってくのが分かった。僕はその体験が忘れられないまま、また現場へと向かう。そうだ、この前ここで芸術作品が生まれたんだ。この場所にいるだけで高揚感を覚えた。なんて僕は幸せなんだろう。芸術というものを肌で実感出来たような気持ちに包まれる。いや、実感出来たんだ。それは紛れもない事実だと疑いもしない。そうしてオーガズムに浸っていると、後ろからグン!とロープで首を引っ掛けられた。誰なのか分からなかったけど、恐らくあの美青年だろうと予測出来た。「君なんだろう。この前ここにいたんだよね。君は楽しかった?僕はとても楽しかった。ありがとう、あんな素敵なものを体験出来て、僕は幸せ者だ。」それを聞いた後ろの男は、フー、フー、と何やら興奮を抑えるような息遣いをしているように思えた。そしてロープに力が入る。筋肉が、骨が、叫んでいる。ああ、僕も芸術作品になるんだ。そう思うと、恐怖心よりも感謝の念、快楽に似た歓喜の気持ちが押し寄せてきた。この僕の体も、喜んでいる事だろう。ただ何の意味も持たず死ぬのではなく、喜びに満ち溢れて、世の中に形を残せて死ねるのだから。しかしそうなると意識までこの世に残せるはずもなく、そろそろ意識が朦朧としてきた。最後に僕は彼にずっと尋ねたかった事を問う。「どうして、君は人を殺すの?」彼は僕にこう答えた。「黙れ殺人鬼。この期に及んで自分の罪から目を背けるのか。あいつがどれだけ苦しんだのか、お前の身を以て思い知れ。」
適当に怪文書2 えままん @Emaman
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