適当に怪文書1

えままん

テーマ「統合失調症」

私はいつの間にか駅で寝てたようだ。ああくそ。携帯を充電するのを忘れてた。もう数%しかない。こんな時は近くのバーで休んでいこう。あわよくば店員と仲良くなって夜を共に過ごそうか。なんて事を思いながら夜道を歩く。ひたすら歩いて1時間経った頃、私はある違和感に気づいた。電車に乗っていた時に持っていたはずのバッグがない。そういえばバッグの中に携帯を入れていたはずなのに、さっきはポケットの中に入れていたではないか。そうこうしている間に全てを包み込み、溶かしてしまうような光を放つネオン街へと足を踏み入れていた。正直な所、私は今夜の居所など微塵も興味などなかった。それ以前に、生きることへの興味、関心というものが私という個体には備わっていないようであった。そしてその鬱憤を全てバーの店員にぶつける。客も皆巻き添えだ。まず私はワイングラスを手に取り、思い切り客の頭にぶん投げる。他の奴らが怯んでる隙を突いて、次は近くにあったボトルを割り、破片を掴み、店員の頭へ突き刺す。悲鳴が交響曲を奏で、ワイングラスやボトルの破片を身にまとい踊る店員や客に揉まれながら、私の胸の内はすっかり晴れていた。気がつくと私は駅のベンチに座っていた。時計の針は9時4分を指す。今のは幻だったのだろうか、夢だったのだろうか。どちらにしろ、私が真実へたどり着く事が出来るはずもなく。その疑惑の塊を溶かしてもらうためにネオン街へと足を運び出した。さて、今夜は舞踏会へ行こう。全身真っ赤な美しいドレスに身を包まれた貴婦人。緑に光り輝くシルクハットをかぶった紳士。それを想像するだけで足が、手が、心臓が、脳が、感情という目に見えないものまでもが踊り狂いだしそうな程に歓喜の色で満ち溢れていた。そうして私は光の海へと消えていく。存在自体が消されるかのように溶け込んで。一筋の光になった私はまっしぐらに階段を下り、バーに向かいながら、とめどなく笑い続けたというだけの話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

適当に怪文書1 えままん @Emaman

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る