第3話

「はぁ……」


 深いため息をつきながら、割り振られた自分の席に向かっていく。


「おはようさん、マナトく~ん」

「……おはよう、かなた


 荷物を整理していると、前の席に座っていた周防奏すおうかなたが体だけこちらに向けに。所謂逆座り状態の彼と挨拶を交わす。

 彼とは席が近いのもあってすぐに仲良くなった。明るい性格で、サッカー部に所属している。何をするにしてもサッカー優先。サッカーを愛するサッカー大好き人間。ソレが彼、周防奏だ。


「なんか元気なさそうだな。なんかあった?」


 ただのサッカーバカではない。サッカーを滞りなく全力でプレーするために勉強にも手を抜かないし、人間関係を疎かにしない。心を読んだかのようにこちらの内情を察し、寄り添うことが出来る。

 ……良い奴なんだ。友達になれて良かったと心から思う。


「わかる?」

「うん。……当ててやるよ。美鈴ちゃんの事か?」

「……正解。そんなわかりやすい?」

「お前は特にな」


 ――そう、僕はみっちゃん、幼馴染みの桂木美鈴の事で頭を抱えている。


「ま、詳しくは聞かねぇけどよ。仲良し幼馴染みなんだから、早めに蟠りわだかまりは解消してた方が良いぞ~」

「……うん。そう、だね」


 わぁってはいるんだけど、何となく顔合わせるの気まずいんだよなぁ。


 ――あんな勘違いしたせいで……。



 ◇ ◇ ◇

 ~放課後~


 授業も終わって、後は帰るだけ。いつもならみっちゃんと一緒に帰るんだけど、今は顔を合わせづらい。申し訳ないけど、一人さっさと帰ってしまおう。

 そんな事を考えながら校門を出て――……


「待ったよ、マナト君」


 聞き慣れた声。見惚れる程綺麗な黒髪のサイドテールを揺らして彼女は現れた。


「みっちゃん……」


 つい顔をそらしてしまうが、彼女が先回りして逃げ道を潰すように立ちはだかる。


「少し、話さない?」



 ◇ ◇ ◇

 そうして僕たちは帰路を少し離れ、地元の公園まで来た。夕焼けに染まった空が僕たちを照らす。公園には誰もいなかった。今時の子は公園で遊ばないのだろうか。


 なんて考えていると、みっちゃんは近くのブランコに腰を下ろした。


「それで話なんだけど、何の話かわかる?」


 もちろんわかるとも。今朝の事、君を避けてしまったことだろう?


「うん、その事。……それで、ね? 私何かしたのかなって」


 心当たりがないから教えて欲しい、と僕に懇願する。怯えて、泣き出しそうな顔。


「……違うんだ。これは僕の問題なんだ」

「と言うと?」


 ……本人に言うの恥ずかしいんだけど、あんな顔させるぐらいなら仕方ない。


「昨日のことなんだけどね、すき焼き食べに行ったじゃん?」

「……うん」

「あの時、告白されるんじゃないかって思っちゃって……。勘違いが恥ずかしくて、顔合わせづらくなっちゃって……」

「――それで避けてたと」


 頷くので精一杯。もう何も言えないし、顔も見れない。勝手に期待するとかマジで恥ずかしい。しかもソレを当の本人に言うなんて……。なんて地獄?


「――……ふ」「?」

「ふふふ、えっ? 告白されるって勘違いしたから……?」


 反芻しながら、抑えきれずに笑みがこぼれる。ソレは次第に大きくなって、太陽のような笑顔を咲かせた。目に涙を浮かべて、お腹を押さえて。


「そんなに笑わなくても良いじゃん」

「ごめんごめん。なんか可愛いなって」


 涙を拭いながら弁明する。全く……。自業自得とは言え恥ずかしい。


「そっかそっか……。もうこれで負い目はない?」

「――うん」

「じゃ一緒に帰ろっ! もう家すぐそこだけど」


 そういって彼女は右手を差し伸べる。トレードマークのサイドテールが揺れる。夕日に照らされた笑顔が神々しい。すごく――……。




 ――そうか、そうなのか。なんで告白されるかもって考えて、顔が見られなくなる程ドキドキしてたのか。……そりゃ男ならドキドキするだろうけど、あんなになるなんて、はっきり言って異常だ。ならなんであぁなったのか。


 答えは簡単。

 僕は、みっちゃん、桂木美鈴の事が好きなんだ。


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