第3話

僕はラノベを読むのが好きだ。中でも古めのラブコメ、言ってしまえば「平成のラブコメ」なんかは大好物である。隣の席にヒロインの幻覚を見るくらいには。

さて、僕はおそらく夢の中である。全てを諦めて目をつぶった訳だが、何故か体質的に幼い頃から、夢を見たい時に夢を見たり、見たい夢を見たりできた。

今日は夢の中で精神科にでも行ってやるかと自分に毒づ...


「...起き...」


そんなことを夢の中で考えていると、何が聞こえる。


「周...」

「周!」


ガバッと起きる。ジャーキングというやつだろうか。教室を見渡し、松雪を探していると、僕を起こした友人に話しかけられる。


「周、お前日直だろ。早く松雪さん手伝ってあげろよ。」


そう言われて、時計を見る。

...バッチリ2限まで寝ていた。

ついでに、今がっつり眠りから覚めたため、夢オチの線も消えた。

そして、僕の友人である直哉を殴って本当に現実か...確認...を...


...?直哉?


大友直哉。朝読んでいたラノベの主人公である。

不確かだが存在する記憶と、それを否定する理性の狭間で頭が爆発しそうだった。


「あ、あぁ。」


何とか捻り出した声が情けなかったのは、寝起きだからか、はたまた困惑から出たものなのか定かでは無い。


一周回って、落ち着いてきた。まず、あの二人はラノベの中とはかなり印象が違った。もう一度、読み直して確認しようとし、机を漁る。

使ったかは定かでないきれいな教科書、原形をとどめていないプリント、

...無い。

ラノベは、僕の机から跡形もなく消えていた。


「どうした急に机漁り始めて。まだ寝ぼけんのか?」


直哉が声をかけてくる。


「そんな感じ。」

「いいから黒板消すの手伝ってあげろよ。」


しびれを切らしたよう直哉は言った。


「行ってくるわ。」


急に立ち上がったので少しめまいがした。少し止まってから歩き始める。

松雪は黒板を消しているだけで、クラス中の視線を集めていた。

なんだか、彼女に近づくのは少し憚られたが、意を決して半分以上消えている黒板を消し始める。

消し終わった後、黒板クリーナーの前で松雪が声をかけてきた。


「よく寝てたね。」


鈴を転がしたような笑い声とは、こういう声を指すのだろう。クスクスと形容するより、コロコロとしたやわらかい声で彼女は笑っていた。

正直、目の前で笑われると心臓によくない。うっかり見惚れてしまいそうな魅力があった。


「ちょっと疲れててね...」


まあ、その原因が目の前にいるわけだが。

そこまで話が弾む訳もなく、二言ほど話して席に戻る。


まだ現実味を帯びていてない感覚を残しながら、再び授業が始まる。



























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