第2話

あまあまなラブコメが始まると思っただろうか。

意味の分からない一限の微積の授業を聞き流す。このまま朝読んでいたラブコメの世界に入れたらどれだけ嬉しいか。ひとまず板書でもしようと思った矢先、ふと黒板の日直欄に目がいく。...今日僕が当番か。

井野田周。割と中性的だが、自分の名前にこれと言って不満を覚えたことはない。

松雪白姫。一度字を見たらしばらく忘れないであろうインパクトのある名前である。

隣の席の松雪を横目で見る。真っ白の長めの髪に、碧眼、スタイル抜群。そのままラノベの表紙から引っ張て来たような容姿である。

......?松雪...白姫?


は?


氷水をぶっかけられたような衝撃と共に、足りない頭をフル回転させる。寝ぼけているのか、はたまた幻覚を見ているのか、朝読んでいたラノベの松雪白姫その人がいた。


...頭が理解しようとない。とりあえず次の休み時間は近所の精神科を探すことが決定した。いくらラノベを毎日読んでいるだけとはいえ、幻覚が見えたらドクターストップだろう。

ひとまず目を閉じて、深呼吸をする。大丈夫。もう一度目を開けたら彼女はいなくなっているはず。



僕はゆっくりと目を開けて



そっともう一度閉じた。


大丈夫。大丈夫。深呼吸が少し足りなかっただけだ。

今だけは、先生の意味の分からない講義が僕に安らぎを与えてくれた。


「...じゃあここの問題はそうだな...日直の松雪。答えてみなさい。」

ダメだった。むしろ状況が悪化した。少なくとも僕以外の人間に観測されている以上、松雪の存在は確定的なものとなった。


「はい。この不定積分は...」


涼しげな声を聴きながら思う。

今日は疲れてるんだ...。そっと自分に言い聞かせ、目を閉じたまま耳もふさぎ寝ることにした。


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