平成のラブコメをもう一度

ヨル

第1話

ラブコメディー

2000年代後半ごろから、ライトノベルと共に発展してきた一種のジャンルである。近年は、設定のマンネリ化と共に大きく数を減らしてきた。

ツンデレな幼馴染。奇妙な部活。好意を寄せてくる妹。

どれも平成に取り残された、ライトノベルのお決まりのような設定である。

こんな時代遅れの設定と共に、ラブコメディーは徐々に淘汰されるべきなのだろうか。



否である。



あざとい後輩が出てくれば心を躍らせ、高嶺の花のような先輩に言い寄られれば、胸が躍った。海に行けば水着を拝み、夏祭りに行けば浴衣を拝んだ。

間違いなく、僕らが体験できないような青春を、恋愛を、僕らに教えてくれた。


さぁ



「平成のラブコメをもう一度」


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下校のチャイムが鳴り響き、本日の戦いが幕を開けた。

わいわいと騒ぐ所謂”陽キャ”たちを横目に、

彼――篠田直哉は靴箱へと向かっていた。

そうして自分の靴に手を伸ばしたところで、涼やかな声が聞こえた。

「あらあら奇遇ね、篠田君。」

靴箱の陰から現れたのは、少々現実離れした美少女だ。

日本人であることを感じさないスタイルと、腰にまでかかろうとする銀髪がきらめいていた。

松雪白姫(しき)。名は体を表すとはよく言ったものだが、彼女の場合、もはや白姫という名が彼女のためにあるようにすら感じる。

そんな彼女が、今直哉に嘲笑を向けている。

「今日も一人で寂しく下校かしら。幼馴染みの二人はラブラブだっていうのに、あなたはずいぶん錆びれた青春ねぇ。」

「はあ」

溜息にも似た返事から、直哉は顎を撫でながら少し考え、口を開いた。

「ああ...うん。一緒に帰るか。」

「なっ......!?なんで突然そういう話になるのよ!?」

さっきとは打って変わって、顔を真っ赤にし、目が吊り上がる。

「そっ...それじゃあまるで、私があなたと一緒に帰りたくてずっと待っていたみたいじゃない!」

「...実際待ってただろ?教室のドアのところから待ってるの見えてたぞ。」

なにを隠そう白姫は、教室の前で20分以上彼を待っていた。おまけに直哉がほかの生徒と一緒にいるところを見て、寂しげに眉を寄せていたことも。

「ぐぬぬ...」

さらにさっきとは打って変わって、顔がこわばったが、直ぐに気を取り直したように髪をかき上げた。

「ふ、ふん!そんなのあなたの勘違いでしょ!」

白姫は畳みかけるように言った。

「ま、まあ?他に一緒に帰る相手がいないって言うのなら仕方ないわね。一緒に帰ってあげてもいいわ。」

「はいはい。そんじゃ購買に買い食いしに行くから行くか。ジュースくらいは奢ってやるよ。」

「まったく仕方ないわねぇ!」

声がワントーンほど高くなった白姫は、直哉の隣に並んだ。









1限のチャイムが聞こえると、僕はそっと本を閉じた。


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