§2とにかく喋って言葉集めだ!
意気込んで異界の言語を学ぼうとしたもののどうすればいいのか、まったくというほど浮かばない。それもそのはず、一般に相手の話している言語が全く分からないという環境というのは、21世紀で情報化社会となっている現在では殆どないといっていい。英語はもちろんのこと、ドイツ語、中国語、イタリア語、オランダ語など、少しマイナーではあるがバスク語なんかも本屋に足を運べば簡単に解説書が手に入る。では相手の言語の予備知識がなく、辞書も、文法書もなければどう習得するのだろうか?
悩みに悩み続けた俺は一つの妙案を頭に浮かべる。暗号解読のように片っ端から単語の用例を集め、この言語を解読していく手法だ。例えば杉田玄白なんかは、いくつかの本を対照しながら、数名の仲間とともに異界の言語で記述されたオランダ語のターヘルアナトミアを二年ちょっとで日本語の解体新書としてしまったのだ 。この手を実行しないというのはおかしい。
先ほど彼女が述べた言葉をオウム返しする。
"シュロット ク マイェズ ?"
"eph!? Ei maj tukei …"
彼女は何か困惑している。おかしい質問だったのだろうか?収穫といえば感嘆詞(?)の"エプ"だけ。これでは非効率すぎる。俺が持って人に誇れる唯一の検定資格、英検2級ですら5000語ほどを死ぬ気で叩き込んだ記憶がある。そこまで喋れるようになるのを望まないが、それレベルの膨大な単語をこれで取得するのはきついものがある。
せめて名前だけでも聞きだしたいな…
独り言のようにつぶやく。このかわいい女の子の名前すら聞き出せないでハーレムは始まらない。意を決して
俺は太田 お お た、君は?
人生で一番ジェスチャーをしたと思う。必死に自分を指さした後に相手を指さして言葉を発言していたのは、第三者視点から見ればさぞ滑稽だっただろう。通じてなかったようだが、彼女は笑うでもなくつぶらな瞳で自分を見つめてくれた。これまでの人生でかわいい子なんてスマホでいくらでも見てきたが、いざ対面するとここまで心奪われるものだとは思わなかった。何回かジェスチャーを繰り返した後、やっと何を知りたがっているのかを理解してくれたのか、彼女が再び声を出した。
"Ei rke mashka…mashka lukakir"
マシュカ?
これが相手の名前なんて確証はないけど咄嗟に、口に出した。
相手はうなずいてくれた。
"El Eiv rasum rke mashka. Slag küv rasum rke ?"
続けて長文を口にした。どうやらマシュカというのはあっているらしい。彼女の話した文頭には"エイ"があるけど、英語と同じ文法構造のSVOと確定したわけじゃあるまい、一人称と決めつけるのは早とちりすぎる。"レケ"というのはBe動詞を表しているのだろうか?。まったく文法構造がつかめない。
エイ レケ オオタ
とりあえずちぐはぐだが文をしゃべってみた。これでいけるのだろうか…?
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