第81話 深夜の試作
その夜と、翌日の夜を費やし、悠里はデコレーションの試作を繰り返していた。
彩奈のアイディアであるスコアボード風の日付プレート。
これは、ホワイトチョコを四角に固めて作ることにした。
日付に関しては、ちょうどデジタル時計のようなフォントの数字の型が家にあった。
ビターチョコレートを流し込んで数字を作り、ホワイトチョコのプレートに貼り付ける。
上に西暦、それから、下に日付だ。
ふと思い立ち、日付である2と14の間に、バスケットボール型のクッキーを貼り付けてみる。
「……可愛い!」
悠里は微笑み、満足そうに頷いた。
「あとは、真ん中にお名前か……Goushi?」
これは、自分で描きたい。
クッキングシートを敷き、チョコペンでアルファベットを一文字ずつ描く。
出来の良い字を選んで、シートから剥がす。
そうして悠里は、丁寧に接着剤代わりのチョコを塗り、プレートに貼り付けていった。
「……うん!いいかな?」
我ながら、うまくスコアボード風のプレートに仕上がったと思い、悠里は微笑んだ。
ユニフォーム型のクッキーのアイシングを考える際は、彩奈から貰った練習試合の写真が助けになった。
悠里は写真の中の剛士を、じっと見つめる。
勇誠学園のユニフォームは、黒。
漆黒の布地に、ローマ字表記の学校名とナンバーが、白字で入る。
襟、袖口、そしてサイドにも、白のラインが走っている。
引き締まったデザインで、いかにも強豪校というイメージだ。
彩奈がくれた写真を、丁寧に見返す。
鋭い瞳で勝利を渇望し、躍動する剛士の姿が、たくさん収められている。
美しいフォームでシュートを放つ剛士。
笑顔でハイタッチする剛士。
仲間と何かを話し合っている剛士。
悠里は、剛士と話している仲間の顔を見つめる。
身長は、剛士よりも幾分低い。
短い髪をツンと上に立てた、いかめしい顔立ち。
何より、勝利をもぎ取ろうとする強い目が印象的な選手だった。
「……副キャプテンさんだ」
5番。悠人に教えて貰った、ユニフォームの番号を思い出す。
イルミネーションの下で、剛士が穏やかな笑顔で話してくれた、副キャプテンへの感謝の言葉。
悠里の脳裏に、優しく蘇る。
剛士にとって、この人は大切な戦友なのだと思うと、悠里の胸も熱くなった。
こんなに真剣に打ち込むものがあって。
努力を重ねて。仲間に恵まれて。
全力でバスケに取り組む剛士を、ずっと応援していたい。
悠里はそう思うのだった。
ふと時計を見ると、写真を見始めてから30分以上経過していた。
「えっ?いやいやいや」
早く、ユニフォーム型クッキーの試作をしないと。
悠里は慌てて作業を再開する。
この日の試作が深夜にまで及んだのは、言うまでもない。
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