piece2 剛士に捧ぐバースデーケーキ

第78話 ケーキのデザインは、バスケットボール

その夜、悠里は早速ケーキのデザインを考え始めていた。


「バスケ、バスケ……」

参考になるものを探したくて、ひたすら画像検索しては、ヒントになりそうなものを書き出していく。



剛士に食べてもらうなら、バスケをモチーフにしたケーキを作りたい。


バスケットボールに、ゴール。

この辺りは、アイシングクッキーで表現できるだろうか。



――ケーキの味は、やっぱりチョコレートかな。


『数学って、腹減らね?』

そう言って、美味しそうにチョコレートパフェを食べていた剛士を思い返し、悠里は微笑む。


甘いものが、好きなのだろうか。

剛士のまた新しい一面、それも可愛らしい側面が見られたことが嬉しかった。


まだまだたくさん、知らないことがあるだろう。

これからも少しずつ、彼のことを知っていきたい。

その先にきっと、剛士との未来があるはずだから――



「ゴウさん……」

机の上に突っ伏して、そっと彼の名を呼ぶ。


つい先程まで一緒にいたのに、もう顔が見たい。声が聞きたい。

その手に、触れたい。


彩奈と拓真に気づかれないように、テーブルの下、そっと繋いでくれた大きな手の温もりを思い返す。

目を閉じれば、優しい感覚がまだ、手のひらにある気がした。

彼に手を握られるだけで、こんなにも嬉しい……



バレンタインデーはもちろん、何かお菓子を作って渡すつもりではあった。

それがまさか、剛士の誕生日を祝えることになるなんて。


教えてくれた拓真に、準備を手伝ってくれる彩奈に、感謝の気持ちが溢れ出す。


いつも優しく見守ってくれる2人のためにも、絶対にサプライズを成功させよう。

悠里は決意を新たに、身を起こした。

「……よし」

悠里はノートを広げ、ケーキや、デコレーションのためのクッキーの図案を描き始めた。



翌日、夕食を済ませた悠里は、早速アイシングクッキーの試作に取り掛かる。

まずは家にある器具で作れそうな、バスケットボールとゴールを試してみたい。


ボール用の丸い形のクッキーと、ゴール用の長方形のクッキーを、5個ずつ作ってみる。

悠里は、アイシングの材料となるシュガーパウダーとアイシングカラーを取り出し、混ぜ合わせた。


ボールに使う、明るめの茶色。

ゴールを描くのに使う、白と赤。

そして枠線を描くための、黒。


下書きしたノートを見ながら、悠里はアイシング作業を開始する。



まずは明るめの茶色で、バスケットボール用の小さなクッキーの土台塗りをした。

少し乾かしてから、次はボールの縫い目を黒で描いていく。


「……うん。可愛いかも」

悠里は、嬉しそうに独りごちた。

ボールの丸さを表現するには、縫い目を少し、カーブをかけて描くと良いようだ。

5つも描いてみれば、コツが掴めてきた。



次は、バスケットゴール。

長方形のクッキーを前に、悠里は集中する。


まずは、ゴールのバックボードを表現するために、白でクッキーを塗りつぶしていく。

それから黒のアイシングでボードの縁取りをし、真ん中に四角いゴールの枠を描く。


真っ直ぐな線を引くのは、なかなか難しい。

アイシングの入ったコルネを持つ右手を、左手でしっかりと支え、悠里は慎重に作業を進めた。



「……うん」

まずまずの出来に、悠里は頷く。


次いで、ゴールのリングを赤で描き、肝心のゴールネットに挑戦する。

白のアイシングが入ったコルネを持ち、悠里はゴールの網を描き始めた。


1枚めは不恰好なゴールネットになってしまったが、5枚目を描く頃には、だいぶ様になってきた。

ゴールリングとネットを、少し大きめに描くと、バスケットのゴールらしさが表現できる気がする。



「ふふ、楽しくなってきた」


描いたばかりのボールと、バスケットゴールを見て、ふと思いつく。

悠里はボール型のクッキーを、ゴールを描いたクッキーの斜め上に配置してみた。


こうすると、ゴールを目指したボールが、飛んできたように見える。

悠里は、顔をほころばせた。

「……可愛い!」



剛士が真剣な眼差しで、シュートを放つ姿が胸をよぎる。


美しい弧を描いて、ネットに吸い込まれていく、鮮やかなゴール。

観客席のどよめきと歓声。熱く弾ける空間――



「……ふふ、スリーポイント!なんちゃって」

「はあ?何やってんの?」

「わあ!?」


独りで盛り上がっていた悠里の背後から突然、呆れ声が飛んできた。

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