第75話 サプライズは悠里の家で

それまでおとなしく2人の会話を聞いていた悠里が、手を上げる。

「あの。サプライズパーティー、うちでやってもいい?」

「え、悠里ちゃん、いいの?」


拓真が身を乗り出すのを見て、悠里は微笑んで頷いた。

「うん!私、ケーキ作りたい」

「マジか!」

彩奈が嬉しそうに声を高める。

「そうだよね、大切なシバさんの誕生日だもんね!」


たちまち悠里の顔が、林檎のように熟してしまった。

「ゆうりんご!」

拓真と彩奈が口を揃えて言うと、大笑いする。


拓真が、笑いながらも悠里を拝むポーズをとった。

「悠里ちゃん、ありがとう助かる!じゃあ、サプライズパーティーは悠里ちゃん家ってことで!」


「でも悠里、準備とか、大変じゃない?」

彩奈が心配そうに問いかけると、悠里はにっこりと微笑む。

「大丈夫!前日が土曜日だし、ゆっくり準備するよ」

「買い物の付き合いとか、部屋の飾り付けなら、私も手伝えるよね? 前日、できることは一緒にやろうよ!」

「ふふ、ありがと!」

赤い頬のままで、悠里は笑った。


「くうーっ。ゴウってば、愛されてるう!」

拓真が大袈裟に泣き真似をしてみせる。

「オレ、嬉しいよ!」

3人は柔らかい笑顔に包まれた。



彩奈の書いたメモに、着々とスケジュールが立てられていく。


前日の土曜日、悠里と彩奈は、悠里宅にてサプライズパーティー準備。

拓真は剛士に怪しまれないよう、彼を誘って遊びに行ってもらうことにする。



「で、当日は開園の9時から遊園地行って、昼過ぎまで遊ぶ。ここで、その場の思いつきみたいなノリで、ランチは悠里ちゃん家で!って感じに持っていけばいいんだな」

拓真が流れをまとめていく。


「で、駅に着いたら、オレがゴウを連れて、ピザ買いに行く。その間に2人は先に家に帰って、サプライズ待機!」


彩奈がうんうんと頷いた。

「うん!主役にピザ買いに行かせんのも悪い気がするけど、これが一番自然だよね」


「いかに自然な流れでサプライズに繋げられるかは、オレたちの演技力にかかってる。がんばろう!」

悠里の胸も、ワクワクと高鳴る。

「うん。喜んでもらえるように、がんばろうね!」


「アンタたち、顔に出さないように気をつけてよね?」

彩奈が赤メガネを光らせつつ、悠里と拓真を交互に見た。

「だね。オレと悠里ちゃん、アブナイと思うわ!」

その言葉に一同頷き、笑い出した。



ふいに拓真が、優しく微笑む。

「……2人とも、マジでありがとね」

「拓真くんとシバさん、本当に仲良いよね」

彩奈も、にっこりとして応えた。

「うん。オレ、ゴウのこと大好き」


そのとき、拓真のスマートフォンが震える。

「お、ウワサをすれば」

受信したメッセージを確認しながら、拓真は2人を見た。


「ゴウ、勉強会終わったって!せっかくだし、呼ぶ?」

「呼ぶ呼ぶー!」

彩奈が元気に応え、悠里の頭を撫でる。

「良かったね、悠里?」

「あ、彩奈!」

そんな2人をニコニコと眺めながら、拓真が剛士に電話をしている。


「お疲れゴウ!みんなでいつもの店にいるからなー!」

用件だけの短い通話を終え、拓真が微笑んだ。

「すぐ来るってさ。良かったね、悠里ちゃん?」

「拓真さんまで……」

色づく頬を持て余し、悠里は思わず溜め息をついた。


彩奈が笑いながら席を立つ。

「さーて。シバさんが来るなら、私はこっち」

そうして悠里の向かい側の席、拓真の隣に移動した。

悠里の隣は剛士と言わんばかりの、あからさまな構図に、悠里は苦笑するしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る