第74話 もうすぐバレンタインデーじゃん
「……っと」
そのとき、彩奈のスマートフォンが着信を告げた。
「あ、拓真くんじゃん」
スマートフォンを持ち、彩奈が応答する。
拓真の元気な声は、向かいにいる悠里の耳にも聞こえるほどだ。
「いま?うん、悠里と駅前の店にいるよー?合流する?」
オッケー、待ってるよ、と答え通話が終了した。
彩奈が、悠里を見て笑った。
「部活終わったらしいよ。いま悠里と一緒にいるって言ったら、来たい!って言うからさ」
ホント、ウチらって仲良しだよねぇと、彩奈は楽しそうに言った。
そして、いそいそと悠里の隣に移動する。
「拓真くん来るなら、私はこっちに座ろっと」
そうして2人で笑い合っていると、程なく拓真が、ジュースを片手に姿を見せる。
「やっほー!2人ともお待たせ!」
「やっほー」
ヒラヒラと彩奈が手を振り、向かいの席を指し示す。
「しかし拓真くんも好きだねぇ、ウチらといるの」
「あはは、まあねー」
笑いながら拓真が向かいに着席した。
「っていうか、2人に話したいことあって!」
悠里たちは、顔を見合わせる。
そんな2人を見つめ、拓真はワクワクとした表情で言った。
「あのね、もうすぐバレンタインじゃん。その日、ゴウの誕生日!」
「ええ!そうなの?」
彩奈が素っ頓狂な声を上げる。
拓真は満足げに頷き、視線を悠里に移した。
「悠里ちゃんも、知らなかったでしょ?」
「うん……知らなかった」
目を丸くして、悠里は頷いた。
「やっぱりなー。ゴウって、そういうの、ちゃんと教えなそうだもん」
意外と照れ屋だからアイツ、と拓真が笑う。
つられて悠里も微笑む。
「ありがとう拓真さん。教えてくれて」
考えてみれば、どうして自分は今まで、剛士の誕生日を確認していなかったのだろう。
拓真が教えてくれなければ、知らぬまま、大切な日を通り過ぎてしまうところだった。
悠里は内心、自分の失態を猛省する。
拓真が明るい声で続けた。
「だからさ!みんなで、サプライズしない?」
「サプライズ?」
「バレンタインデー、日曜じゃん。普通にみんなで遊ぶと見せかけて、サプライズパーティー、やっちゃおうよ!」
彩奈が目を輝かせる。
「それ、いい!普通にどこか出かけてから、サプライズする?」
「うん!オレ実は、みんなで行きたいとこあるんだよね」
「へえ、どこ?」
赤メガネを指で押し上げながら、彩奈が問うた。
「多分、2人も行ったことあるんじゃないかな? ほらあそこ!」
そう言って拓真が示したのは、地元にある小さな遊園地だった。
悠里と彩奈は、ああ!と手を打って笑う。
「懐かしい! 昔よく行ったわ。でもあそこ、子ども向けじゃない?」
「ところがどっこい、案外楽しめるのよ」
彩奈の問いかけに、拓真がにんまりと微笑を浮かべる。
「オレたちの子どもの頃よりも、結構パワーアップしててね? こないだ、イトコと一緒に行ったんだけど、オレの方が楽しんじゃったくらい」
「へえ。イトコは何才?」
彩奈が口を挟む。
「幼稚園の年中だから、5才?女の子!」
可愛いんだよね、これが、と拓真が微笑む。
「拓真くんなら、同じレベルで遊んでそう!」
「そうそう、オレの脳ミソ5才児レベル……って、失敬な!優しいお兄ちゃんって慕われてんの!」
彩奈のからかいに、拓真がいつもの調子で乗っかる。
「でも、ちょうどいいと思うんだよね。ガチの遊園地に行っちゃうと1日遊べちゃうから、サプライズする余地もなくなるでしょ」
「ああ、なるほど」
彩奈が後を受ける。
「あそこなら、半日で充分回りきれる。その後にサプライズパーティーができるってわけね?」
「そういうこと!」
我が意を得たり!といった体で、拓真が親指を立ててみせた。
「じゃあ、遊園地でまずは普通に遊ぶでしょ?」
彩奈が紙ナプキンをメモ帳代わりに、計画を書き始めた。
「サプライズ!……は、遊園地じゃ難しいよね。場所変えないと」
彩奈が頬杖をついて思案の色を浮かべた。
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