#秒恋3 友だち以上恋人未満の貴方に、甘い甘いサプライズを。〜貴方に贈るハッピーバースデー〜

piece1 サプライズ計画

第73話 2人の気持ち

2月上旬の放課後。


悠里と彩奈は、駅前のファストフード店でお茶をしつつ、お喋りに興じていた。


剛士はバスケ部の勉強会、拓真はライトミュージック部の練習日で、この場にはいない。



悠里と彩奈は、学校でもずっと一緒にいるのに、それでも話は尽きない。

外が夕暮れの色に移り変わるまで、窓際の席で笑いの花を咲かせ続けた。



「……ところで、シバさんの勉強会って、なあに? バスケの試合でも観るの?」

彩奈からの問いかけに、悠里は微笑みながら首を横に振る。


「2月下旬の学年末テストに向けて、後輩のために試験対策をするんだって。出そうな問題の解説をしたり、わからないところを教えたり」


「ええー!?すっごい!」

彩奈が目を見開いた。

「わざわざ後輩部員の勉強を見てあげるの? 面倒見良すぎない?」


「バスケ部って、文武両道が部のモットーらしくて。監督さんが、成績に関しても厳しいんだって」

「そうなの?」


「うん。テストで平均70点行かなかったら、試合に出して貰えなくなるとか。あまりに成績が良くないと、練習に出るのを禁止されたり」

「うわあ、大変だ」


感心したように彩奈は頷き、それからニヤリと目を細めた。


「さすが悠里。シバさんの内部事情に詳しいじゃん」

「な、内部事情って」

カアッと悠里の頬が熱くなる。


彩奈のニヤニヤ笑いが大きくなるのを見て、悠里は慌てて弁解を始めた。

「そんなんじゃないよ。私も彩奈と同じこと思ったから、ゴウさんに聞いただけ」


「うんうん。いつの間にか2人っきりで、いろいろ会話してるわけだ」

「もう、彩奈!」


真っ赤になってむくれた悠里が可笑しかったのか、彩奈はお腹を抱えて笑い出した。



「これで、まだ付き合ってないなんて、信じらんないなあ」

「え?」

彩奈が頬杖をつき、探るように悠里を見つめる。

「付き合わないの?」


悠里は言葉を探すために、少しだけ沈黙した。

うーん、と言いながら、半分以上減っている飲み物を、ストローでくるくるとかき回す。


「……ゴウさんも言ってたんだけどね。私たちの始まりって、あんな感じだったじゃない?」

「……うん」


悠里のストーカー被害を思い返したのだろう、彩奈の眉間に深い皺が寄った。

そんな友人の表情を和らげようと、悠里は努めて明るい声で続ける。


「だからね。これからは、たくさんの日常を、一緒に過ごそうねって。ゴウさんと、話したんだ」



12月、初めて2人で出かけたときに話した、たくさんのこと。

剛士の抱える傷と、打ち明けてくれた本心。


彼の過去に関する繊細な話を、悠里の口から彩奈に伝えることはできない。

けれど、自分と剛士の未来については、彩奈には正直に話したい。


悠里は真っ直ぐに彼女を見つめ、微笑んだ。



「……そっかあ」

彩奈が頷き、温かい笑みを浮かべた。


「なんか、いい感じだね! これからたくさんの日常を過ごして、ちょっとずつ2人の関係を深めたいってことなんだね?」


明確に言葉にされると気恥ずかしい。

悠里は俯きながらも、首を縦に振ってみせる。



彩奈が手を伸ばし、向かい側に座る悠里の頭を撫でた。


「2人のキモチを知ってる私や拓真くんからしたら、ちょっと焦れったくはあるけど!でもまあ、2人で決めたことなら応援するよ!」

「……ん?」


2人のキモチ?

真っ赤な顔のまま首を傾げた悠里に、彩奈は笑みを深める。


「いやもう、傍から見てたら悠里もシバさんも、お互いのこと大好きー!って感じだからさあ」

「彩奈!」


耐え切れなくなり、悠里は両手で顔を隠した。

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