piece9 重ねる日常
第67話 暖かい思い出
はぁーっと、剛士が長い溜め息をつく。
「……カッコ悪、俺」
「カッコ悪くないよ」
恥じらいを振り払うように、くしゃくしゃと前髪を掻き上げた剛士に、悠里はにっこり微笑んだ。
悠里はまだ、練習試合の一度しか、彼のバスケ部に触れたことはない。
けれど、あのとき見たバスケ部は、仲間意識が高く、互いを助け合い、皆で戦うという意志が強いチームだった。
そのような部の雰囲気こそ、剛士が自分を投げ打って、守り抜いたものなのだと思う。
悠里は真っ直ぐに彼を見つめ、言った。
「ゴウさんは、カッコいいよ」
剛士は悠里の顔を見つめ返すと、ふっと緊張が解けたような優しい微笑を浮かべる。
「俺、こんな話をしたの、初めてだ」
切れ長の瞳は、先程までとは打って変わって、穏やかな光をたたえていた。
「拓真も、バスケ部のみんなも、俺を助けてくれた。俺1人じゃ駄目だったかも知れないけど、みんなのおかげで今があるんだ」
友だちや仲間への感謝を口にする剛士の姿に、胸が暖かくなる。
悠里は微笑んで頷いた。
「特に副キャプテンには、本当に、助けて貰ったよ」
懐かしむように、剛士は柔らかな笑みを浮かべる。
「拓真と同じで、俺が揶揄われたり、いろいろ言われたりしたとき、いつも庇ってくれた。励ましてくれた」
悲しみを吐き出したことで、暖かい思い出の方にも目を向けられるようになったのだろうか。
いつになく饒舌に、剛士は語り続ける。
「そいつな。俺がいないときに、みんなに演説してくれてたらしい。俺がバスケ部には必要だって、俺がキャプテンじゃないとイヤだ、だからみんな力を貸してやってくれ、俺にバスケを続けさせてやってくれ……って」
剛士に向けられた、仲間からの、ひたむきな感情。
微笑んだ悠里につられるように、剛士も顔をほころばせた。
「そこまで言われたら、弱音なんて吐いてられなかった。俺、がんばるしかなかったよ」
「そっか……素敵な人だね、副キャプテンさん」
直接会ったことのない人ではあるが、悠里は感謝せずにはいられなかった。
ふっと剛士は微笑む。
「お前も、見たことはあるヤツだぞ?」
「えっ?あ、練習試合のとき?」
「そう。副キャプテンはポイントガード」
「ポイント、ガード……」
「はは、わからないよな」
剛士は楽しそうに説明する。
「ポイントガードっていうのは、ゲームの司令塔だな。ウチは、副キャプテンがそのポジションで、仲間にフォーメーションとかの指示を出してる」
「うんうん」
「俺は、シューティングガード。簡単に言えば、点取り屋だな。スリーポイントとか、ドライブ……っていうんだけど、ドリブルで相手を抜いてゴールを狙いに行ったりする。それから、ポイントガードの補佐をするのも重要な役割だな」
「カッコいい!」
目を輝かせる悠里に、思わず剛士は笑った。
「そうだな。カッコいいポジションだよな」
言いながら、今度は照れ笑いを浮かべる。
「……ごめん。急にバスケの話をしだして」
悠里は微笑んだ。
「教えてくれて嬉しい!試合のときも、わかって見ていたら、もっと楽しく応援できたね」
「……うん」
剛士は照れ笑いをそのままに、悠里を見つめた。
「また、観に来てな」
「うん!」
嬉しくて、悠里は思わず繋いだ手をぶんぶんと振った。
弾かれたように、剛士が笑い出す。
「お前、本当に可愛いな」
悠里も声を立てて笑った。
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