piece2 剛士の傷跡

第39話 仲良くしていきたいからさ

険しい顔で彩奈は言った。

「だってシバさん、酷いじゃん。元カノと話しといて、何の説明もなし。しかも1人でさっさと帰るなんてさ!」

「……彩奈」

先ほどと同じように親友の手を握り、悠里は小さくたしなめる。

しかし、彩奈の怒りは収まらなかった。


「シバさんの前では、悠里に免じて私も何も言わなかったけどさ。でも、こんなの酷いよ。シバさん、悠里に対して悪いと思わないのかな」

「彩奈。やめよう」

いたたまれない気持ちで、悠里は彼女の言葉を押しとどめようとする。


「そうだよね。彩奈ちゃんが怒るのもムリない」

拓真は、彩奈を宥めるように優しい表情で頷いた。

「……でも、ごめん。今日のは許してやって欲しい。あいつも、辛かったと思うんだ」

彩奈が唇をへの字に歪める。

「……どういうこと?」


すっと目を伏せ、拓真は答えた。

「あの元カノとはさ。あいつ、酷い別れ方したんだよ」

「酷い、別れ方?」

拓真は少し逡巡する様子を見せたが、片手を顔の前に持っていき、拝むポーズを見せた。


「オレから話せる部分は、話すからさ。だから、あまりゴウのこと責めないであげてね?」

「わかった!」

彩奈が大きく頷いた。

そして唇を噛んだ悠里を見て、肩を叩く。

「聞いておこうよ。モヤモヤした気持ちを抱えたままなのは、ゼッタイ良くない!」


「……うん」

剛士のいない場で、彼の過去に踏み込む。

後ろめたさを感じながらも、悠里は頷く。

彩奈の言うとおり、このまま剛士との距離を感じて、ギクシャクしてしまうことの方が怖かった。


拓真が、彩奈そして悠里を見て、励ますように優しく微笑んでみせる。

「オレも……ゴウもさ。2人とは、これからも仲良くしていきたいからさ」

そうして彼は、静かな声で話し始めた。

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