第36話 突然の再会

「2次会はカラオケしようぜ!」

喜々として拓真が提案した。

「さんせーい!」

彩奈が両手を挙げる。

ボウリング場の上のフロアは、カラオケボックスだ。

4人連れ立って、エレベーターで登る。


「そういえば、この4人でカラオケは初だね!」

ニコニコ笑いながら、拓真が皆を見渡す。

「ボウリングからのカラオケは、ゴウとオレの定番なんだけどね」

「へえ、どういう曲歌うの?」

彩奈の問いに、拓真は悪戯っぽい微笑で応えた。

「聴いてのお楽しみ!」

笑いながら、悠里と剛士は2人のやり取りを見守る。

そんな構図も、板についてきた。

剛士の歌声を初めて耳にできる。

悠里も胸を弾ませていた。


小気味好い音とともに、エレベーターの扉が開く。

その先のフロアには、カラオケを終えてエレベーターを待っていたのだろう。

悠里たちと同じ、聖マリアンヌ女学院の制服を着た2人組がいた。


そのうちの、パーマがかかったショートヘアの女性が、あっと声を上げる。

きょとんと彼女に目を向ける悠里と彩奈。

制服のリボンの色は、悠里たちよりも濃い赤。3年生の色だった。


自分たちの知り合いだろうか。

とっさに悠里は2人組の顔を確認し、記憶と照らし合わせる。

しかし、ショートヘアの女性の目は、悠里たちを見ていたわけではなかった。


「剛士!」

そう叫ぶと、彼女はパッと華やいだ笑顔を見せた。

驚いて悠里は、隣りに立つ彼を見上げる。

切れ長の瞳が、驚きと、深い翳りを映していた。

「久しぶりだね。剛士……」

「……ああ」

低い声で呟く彼の表情は、先程までとは別人のように、硬く強張っていた。

その様子に、悠里の胸はズシンと締め付けられる。



「行こうぜ、ゴウ」

拓真が剛士の肩を押す。

しかしそれを遮るように、女性が言った。

「剛士。少し、話せない?」

「はあ? 何言ってんの」

苛立ったように答えたのは、拓真だ。

いつもの柔らかくて明るい彼からは想像もつかない態度に、悠里たちは身を硬くする。


「おいゴウ、行くぞ」

そう言い捨て、彼の腕を引く拓真に、静かに剛士は応えた。

「……悪い。先に行ってて」

「ゴウ!」

「すぐ、終わるから」

目を伏せ、小さな声でそう言う剛士に、拓真は溜め息をつく。

「……わかったよ」


そして、拓真は悠里と彩奈を振り返った。

「行こ」

険悪な空気に萎縮した2人は、とりあえず拓真の言葉に従った。

ショートヘアの女性が、ごめんなさいね、と言うように、悠里たちに向かって微笑した。

慌てて悠里は会釈を返したが、彼女の勝気な笑顔に、心は更に萎んでいった。

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