piece3 電話から溢れ出す男の声と異常な手紙
第8話 恋する乙女?
「よお、恋する乙女!」
バシッと背中を叩かれ、悠里は息を飲んでよろめく。
振り返ると、ニヤニヤ顔の彩奈がいた。
赤メガネ越しの瞳が、楽しそうに輝いている。
「痛いよ」
悠里は怒ったふりをしながら問い返す。
「なに?恋する乙女って」
「だって、あの日から悠里、ずっと上の空じゃーん」
からかうように、彩奈は悠里の長い髪を撫でた。
あの日とは、1週間前に2人が勇誠学園に押しかけたときのことだ。
悠里の大きな瞳を覗き込み、彩奈が問いかけてくる。
「柴崎さんのこと、考えてるんでしょ?」
パッと悠里の頬が染まった。
「か、考えてない!」
「悠里、赤くなったあ!」
彩奈は、ますます笑いを深め、悠里の頬を突つく。
「イケメンだもんね、柴崎さん」
「そんなんじゃない」
ますます顔を赤らめ、悠里は反抗した。
「柴崎さんは、親切なんだよ」
「おー! 顔に惹かれたわけじゃないってことね!」
彩奈の言葉に狼狽えてしまう。
「そ、そんな話、してないじゃない!」
一体自分は、何をムキになっているんだろう。
裏返った声で反論しながら、悠里自身もよくわからなくなってくる。
そんな彼女を見て、彩奈がニヤニヤと囁いた。
「また、会いに行っちゃう?」
彩奈の言葉に頬が熱くなる。
慌てて悠里は首を振った。
「行かないよ! 用もないのに」
「会いたいって、立派な用だと思うけどなあ?」
悠里は溜め息をついた。
「もう。やめてよ……」
「ごめんごめん! 悠里が赤くなるから、かわいくってさあ」
彩奈が屈託なく微笑む。
「……これで、イタ電さえなくなれば、一件落着なんだけどね」
ふいに真剣な表情に切り替わり、彩奈が呟いた。
「……うん」
悠里は曖昧に頷いた。
「でも、大丈夫! イタ電の人もそのうち飽きるだろうし、このまま無視して、やり過ごすよ。実害は、ないしね」
「……そっか」
彩奈が笑顔を見せた。
「辛くなったら、いつでもグチってね」
「うん! ありがとう」
悠里は、意識して口角を上げ、にっこりと微笑んだ。
親友に、これ以上の心配をかけないように。
そう。実害はないのだ。
もう一度、心で復唱する。
だから大丈夫。悠里は必死に、繰り返し自分に言い聞かせた。
実は新たな嫌がらせがあった、などと彩奈に打ち明けるわけにはいかない。
この優しい親友に、余計な心配をかけたくない。
そんな思いが、彼女をなけなしの勇気を奮い立たせていた。
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