第7話 気になっちゃった?

「ゴウ、もう部活終わるよな? 一緒に反省文書こうぜ」

悠里たちが帰った後、拓真が言った。

「そうだな」

溜め息混じりに、剛士は頷く。

「着替えるから、待っててくれ」



2人は連れ立って、駅前のファストフード店に腰をおろす。

「やー、可愛かったなー悠里ちゃんたち。喋れて得した!」

無邪気に笑う拓真を見て、剛士は溜め息をつく。

「お前、能天気でいいな」

「可愛い女子と話せたら嬉しいでしょ、フツー」


剛士は眉を顰め、問うた。

「……あいつら、そんなに有名なのか?」

「そうだな。10月頭のマリ女の学園祭に行った奴らが、写真撮ってきて。一躍有名になった感じ」

「へえ」

「他の子の写真もあったけど、あの子たち1年だしね。特に注目されちゃったんじゃない?」

「へえ」


拓真が頬杖をついて、ニヤリと笑った。

「悠里ちゃん。一番人気だよ?」

「……へえ」

面白くなさそうに、剛士は適当な相槌を打つ。


拓真は、ニヤニヤ笑いを深めて、彼の顔を覗き込む。

「悠里ちゃんのこと、気になっちゃった?」

「別に」

「ゴウ、怖い」

冷たい目で睨みつけられ、拓真は金髪頭を竦める。


「まあ、あと1か月もすれば、このお祭り騒ぎも落ち着くと思うよ」

フォローのつもりなのか、拓真はそう付け加えた。

剛士は不機嫌な顔のまま、ふいと横を向く。


「……でも、女の子がイタ電とか受けたら、そりゃ怖いよね」

拓真は彼女たちとの会話を思い返し、呟いた。

「詳しいことはよく分かんないけど、早く収まるといいな」

「……そうだな」

剛士は切れ長の瞳を伏せ、小さく頷いた。



剛士が脚を組み替えた拍子に、カサッと、傘の入った袋が音を立てた。

先程、悠里から受け取ったものだ。


品のいい、ブラウンの厚手の袋だった。

剛士に渡すために、わざわざシンプルな色合いの袋に入れてきたのだろう。


剛士は、何の気なしに袋から傘を取り出す。

すると、傘と一緒に小さなカードが出てきた。



『傘、ありがとうございました。

とても助かりました。

橘悠里』



無駄のない、簡潔なお礼の言葉。

とても丁寧で、綺麗な字で書かれていた。


剛士の小さな厚意を、真っ直ぐに受け止めてくれた、彼女のメッセージ。

我知らず、剛士はふっと、口元をほころばせた。



それを見た拓真が、どことなく嬉しそうに尋ねる。

「それで? ゴウは、どうして悠里ちゃんと知り合ったのさ。悠里ちゃんが、傘を貸してくれたって言ってたけど?」

「そのままだよ。雨の日に道でぶつかったから、駅まで送って、ついでに傘貸しただけだ」

「道でぶつかった!? なに、そのマンガみたいな展開! 運命の出会いってヤツ?」



その瞬間、剛士の空気が、ピリリと棘ついた。


「……冗談じゃねえよ」

彼は、面倒くさそうに溜め息をつく。

「関わりたくない」


「……それは、」

探るように、拓真が彼を見つめる。

「悠里ちゃんが、マリ女の生徒だから?」


「……関係ねえよ」

剛士は低く呟き、目を逸らす。

「変に関わって、部活動禁止令を出されたくないだけだ」

「ふーん」

頬杖をつきながら、拓真は微笑んだ。

「ま、そういうことにしときますか」

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