第5話 部活動禁止令

谷と呼ばれた教師は、交互に剛士たちと悠里、彩奈を見比べる。

大柄で短髪、大工の棟梁と言われても納得できそうな、いかめしい顔立ちの教師だった。



まず谷は、悠里たちに尋ねた。

「ウチの生徒が、何かやりましたか?」


谷は丁寧に問いかけたつもりのようだが、声が大きく凄味がある。

気負された悠里たちは、とっさに口を開くことができなかった。


彼女たちが答えないのを見てとると、谷は険しい顔で、剛士と金髪の男子生徒に向き直る。

「お前たち、これはどういうことだ? 他校の……しかも女子高の生徒とトラブルなんて、大問題だぞ」

「ち、違うんです! オレたちも、何がなんだか、よく分からないんスよ」

わたわたと、男子生徒が手を振る。

対して剛士は、不機嫌に眉根を寄せ、何も答えなかった。



谷が、低い声で2人に言う。

「今から生活指導室に来い」

「俺たち、何もしてません」

不満げに、剛士が谷を睨みつけた。

「……柴崎。場合によっては、反省文だけでは済まされんぞ。部活動禁止令を出すことだってある」


剛士の目の色が変わった。

「はぁ? なんで部活やめなきゃいけないんですか!」

「そ、そうですよ! ゴウはバスケ部のキャプテンなのに!」

金髪の男子生徒も、慌てて反論する。

「キャプテンだからだよ」

にべもなく谷が言った。

「他の部員に示しがつかんだろうが。とにかく生活指導室に来い」


「うわあ……」

男子生徒が、金髪頭を抱える。

剛士は声を発しなかったが、その切れ長の瞳は、怒りに燃えていた。

思わぬ方向に事態が進んだことで、彩奈も、すっかり毒が抜けてしまっていた。



こんな状況を作ってしまったのは、自分だ。

悠里の目が熱くなる。


――何とかしなきゃ。

悠里は考える間もなく、谷に向かって叫んでいた。

「先生! 違うんです!」



突然、他校の女子に先生と呼ばれ、谷は、ぽかんと悠里を見つめる。

彼女は、持参していた彼の折り畳み傘を、袋から出して見せた。


「私、この間の雨の日に、柴崎さんに傘を貸していただいたんです。だから今日は、傘をお返ししたくて」

「ゆ、悠里……」

彩奈が口を挟もうとしたのを、悠里は手で制す。

「ご連絡先がわからなかったので、学校に直接来てしまいました。お騒がせして、本当に申し訳ありません」



そう言って深々と頭を下げる彼女に、谷は困惑して剛士を見た。

「柴崎……本当か?」

「……はい」

剛士が低い声で応えた。



谷は何か言いたげに、しばらく剛士と悠里を見比べていたが、やがて肩をすくめ頷いた。

「……まあ、いいだろう。お前らは日ごろ問題行動があるわけでもないし、今回は見逃してやる。校門で騒いだ件の反省文だけでいいぞ。明日朝、提出しろ」

「うわあ、やっぱり反省文かよ!」

金髪の生徒が崩れ落ちる。

「かわいいもんだろ」

谷は、豪快に笑いながら去って行った

「お前ら、用が済んだなら早く帰れよ!」

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