3.集合:シュウ・レッドマンの場合
シュウ・レッドマンは名前の通り赤い髪に手をやって、めんどくさそうに振り払った。
やってられない。
このやるせなさ指数といったら最高レベルだ。
ホームシックなどなったこともないが、こうも国内をあちこち飛ばされると、「おうち帰りたい」の一言くらい呟きたくもなる。仕事仕事で休みがないし、その貴重な休日、になる予定だった昨日に連絡を寄越した髭面オヤジがふいに浮かんで、やっぱり一発殴っておくべきだったと後悔する。
いいか社会、休日とは移動日のことじゃねえんだぞ。
「ったくよぉ、昨日まで東にいたんだぞオレは! なんで今日、しかも真昼間から西にいなきゃなんねえんだ!」
と思わず叫ぶ。勿論上司にではなく太陽に向かって。
まるで太陽と一緒に動いているようだ、と柄にもなく詩人になってみる。
しかし太陽は昼に西にはいない。ので、あまり褒められた出来ではない。舌打ち。
それもこれもあれもどれもついでに詩人にはなれそうもないのも、今からご対面あそばす奴らのせいだ絶対そうだ。じゃないとやってられない、以下エンドレスループ。
ぼとぼとと垂れ落ちる不満を撒き散らしながら、ロータリーを大股で歩き去る。
平凡な丸い噴水をを一瞥して進行を左に取り、あまりおおっぴらに活動できないような店の群れの小道を歩く。
碁盤目状の構造に行き着いたら直進二百メートル、右に折れて三本目の道を通り過ぎてすぐ、右側の視界。慣れたものだ。あっという間につまらない建物にたどり着く。実につまらない。建築自体がマズイのかそれの存在意義がダメなのか、どっちにしろ気持ちのいい建造物ではない。
【ディプシライト石保持能力者協会西部支部】
役人的だ、と特に何の感慨も湧かずにそう思う。
これだから人が覚えてくれない。
遅刻だ、と特に何の感慨も湧かずにそう思う。
自分が設定した時間より三十分ばかり遅いようだったが、そんなものは軽やかに覚えちゃいない。
扉を開けるとただでさえ人の来ない協会に若い男と女のセット、見つけるのは簡単だった。はたして奴らはそこにいた。ただし生意気にもシュウの真正面に位置しながら非常にかわいくない様相を呈して、である。
シュウから見て左、灰色金髪の女が凄まじく気持ちよさそうに眠っていた。身体を丸めている様は満足げな猫を髣髴とさせる。
シュウから見て右、黒髪で細身の男が優雅に本のページを捲っていた。
長めの前髪から見える鮮やかな紅目が、非常に悔しいが異常なまでに似合っている。シュウの拳が勝手に震えだす。ふるふる、ふるふる。
(か、っっわいくねぇぇえええええ!)
彼の理論では、新人とはもっとがちがちに緊張して自分が姿を現した瞬間に立ちあがり、度を越えたお辞儀をして直立不動で立ち尽くすものなのだ。それなのにどうだ、彼らは非常に落ち着いている。むしろ一人にいたっては「落ち着いて」を踏み台にして緩んですらいる。決定だ、威圧感指数は最高でいこう。
「カナキ・シュレイラおよびイオル・レイウェンダム! 本日付で両名を俺、シュウ・レッドマンの監視下におく。今日からオレが直属の上司だ、いいな!」
踵を鋭く鳴らし高らかに言葉を発すると、起きていたほうが立ち上がり、かしずくように頭をさげた。なかなかいい、とシュウは思った。カナキの方だった。シュウは満足しかけ、そして満足するにはまだ早いことを思い出した。
「……お前カナキのほうだな、とりあえず、そこの何もかも緩みきってる奴を起こせ」
カナキが無言で手に持っていたハードカバー装丁本(の角)をイオルめがけて振り下ろしたのも、その後でぐぎゃあ、だとかいう獣じみた咆哮が聞こえたのも、機嫌が悪いのでシュウは全部全部無視することにした。
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