腫れた空と晴れた空

日曜日

駅前に6時ちょっきりに着くとそこには花乃の姿があった。


佑「よう!早いな何時から来てるんだよ。」

花乃「おお佑くん!30分前だよ!楽しみでさ」

佑「楽しみでも、もう20分くらい遅くこいよ!」

花乃「いいじゃん!もう6時だし」

佑「そうだな。おっ、優奈と琢磨じゃねあれ」

花乃「違うよ、あれはただのカップルだよ」

琢磨「カップルじゃありません」

優奈「何言ってんの花乃〜!」

花乃「ごめん!なんかそう見えた笑」

琢磨「おふざけはいいから行くよー!」


集合場所から5分ほど歩いたところにある、この町では有名な焼肉屋に入った。


佑「女子もいるし食べ放題じゃない方がいいか?」

琢磨「え? 絶対食べ放題の方がいいだろ!食べ放題だぜ?」

優奈「食べ放題で元取れるの男子くらいだよ!ぜ〜ったい単品で頼んだ方がいいよ!ねえ花乃!」

花乃「食べ放題じゃないの?」

一同「え?」

琢磨「だよな!?食べ放題だよね!」

花乃「うん!」

優奈「裏切りの花乃…」

佑「男勝りの花乃」

花乃「なにそれ!ひどい!じゃあ単品でいいもん!」

優奈「じゃあ食べ放題で!」

花乃「え?!いいの優奈!」

優奈「仕方ないでしょ!」

花乃「大好き!優奈!」

優奈「はいはい!食べるぞー!」

佑「なんだかんだ優しい優奈。」

優奈「そんなことないよ。」

そう言うと少し目を逸らし少し耳に髪の毛をかけた。

佑「とにかく決めたからには食うか!」

琢磨「よしガンガン食うぞー!」

一同「おー!」

それから俺らは席に案内された。

定員「食べ放題コースですね。こちらのパットからご注文お願いします。」

琢磨「ありがとうございます。」

優奈「何から食べるとかある?」

花乃「カルビ!カルビ!」

琢磨「なんか、牛タン塩からとか言うよね。てか、牛タン食べたいし!」

佑「まあまて、まず肉を焼くのは俺なんだろ?じゃあ食う機会少ない俺がせめても選ぶべきじゃないか?」

優奈「まあまあ!私が大体頼んだから!好きなの食べて!」

佑「でも俺が焼く役なんだよな…」

優奈「あんまり面白くないよ!?」

佑「狙ってないから!」

一同「ははは!」

そんな他愛もない話をしながら、肉を焼きながら、美味しくいただいた。

結局4人とも腹いっぱいになるまで食った。

佑「食ったなー」

花乃「お腹いっぱいだね。」

優奈「意外と食べれたかも〜」

琢磨「意外と食えるんだな優奈」

優奈「もちろん!やる時はやるんだよ〜優奈は!」

自慢げで話す優奈の方は、笑顔で誇らしそうだった。

琢磨「んじゃ、そろそろ帰るか!」

花乃「そうだね!」

佑「じゃあ会計行きますか!」

定員「お会計一万二千円です」

佑「1人三千円ねー!」

花乃「はーい!」

琢磨「佑さんお納めください!」

佑「はいはいどうも」

優奈「ごめんトイレ行きたいから佑払っておいて」

そう言われ財布を渡された。

佑「じゃあこれでちょっきりかな」

定員「一万二千円、ちょうどお預かりします。ありがとうございましたー」

そうして、外に出ると空には雲がかかっていた。

優奈「ごめんお待たせー!」

佑「全然大丈夫だよ。」

花乃「優奈もきたし、帰りますか!」

琢磨「じゃあ俺たちこっちだから気をつけて帰ってな」

花乃「じゃあね!」

優奈「花乃!明日ね〜! 佑もまた明日学校でね。」

花乃「うん!明日ね!」

佑「また明日な」

こうして俺たちは、2人で帰ることになった。

しばらく歩いてると、曇った空を見上げながら、花乃が口を開いた。

花乃「雲かかって空が見えないねー」

佑「そうだな〜」

花乃「空って人間の感情みたいだよね。雲の時は暗い気持ち。安直だけど雨が降ってる時は、涙流して泣いてるみたいじゃない?」

佑「手を翻せば雲となり、手を覆せば雨となるって言葉が作られるくらいだからな。」

花乃「どう言う意味?難しいよ〜。佑くん」

佑「人の感情の移り変わりが早いことの例えらしいよ。天気で人の感情表すなんて粋だよな」

花乃「うん、だけどなんか、悲しいね。」

花乃は少し寂しげな顔でそう答えた。俺は、意外な答えに少し驚き、すぐに問い返した。

佑「何が?」

花乃「雨と雲って暗いイメージじゃん。晴れはないの?なんか悲しいよ。」

佑「日本人は、悲しいことを美しいとする文化がある。喜ばしい事よりも、悲しい気持ちの方が心に来るんじゃないか?」

花乃「それってなんか嫌だ。悲しいことを美しいって思うより、嬉しいことに感動する方がいいじゃん。」

花乃はいつになく真面目で少し悲しそうにそう答えた。

佑「花乃は、日本人ってより外国人の感性に近いのかもな。」

花乃「そうなのかな、日本人なんだけどね!笑」

佑「ああ、でもその方が俺も好きだ。人の悲劇が美しいだなんて、普通に思ってたけど意外とサイコパスだよな。」

花乃「え?そ、そうだよね!日本はサイコパスしかいないんだー!」

佑「そうかもな!笑」

話のキリが良くなったのを見てるかのように、ザーーっと大粒の涙がこぼれる音が聞こえ始めた。

花乃「げぇっ!雨宿りできる場所さがせー!」

佑「こっちにベンチあるよ!走るぞ!」

花乃「うん!」

俺たちは、雨が凌そうな公園の屋根があるベンチに腰をかけて落ち着いた。

花乃「はぁ〜しばらくふりそうな強さだね。」

佑「そうだな。」

花乃「ねぇ、佑くん、少し話さない?」

佑「いいけど、改まってどうした。」

何か言いたげな顔をしている花乃を見ていると、少し開いた手をギュッと握り直して、話し出した。

花乃「少し重たい話なんだけどね、話してもいい?」

佑「うん。何かあったのか?」

花乃「ううん。ちょっと昔の話なんだけどね、私ね、お母さんいないの。」

佑「そうなのか。」

花乃「うん。それでねお母さんは、私のこと庇って交通事故で死んじゃったの。」

佑「うん。」

花乃「それでね、お母さんがいなくなってから皆んなは、花乃を励ますつもりなのかもしれないんだけど、お母さんは、花乃の中にいるって言うんだ。」

佑「そうだね。そう言うかもね。」

花乃「でもね、その言葉が悲しいの、花乃には、花乃には悲しいの、私の中ではね、生きてるお母さんが全てだった。だから、だからお母さんがいるって言われるたびに、苦しくて、悲しくて、愛しくなるの。」

皆んなは励ましのつもりで話しているのかもしれない、でも、花乃からしたらその話に触れること自体が、彼女を悲しくするのかもしれない。

佑「花乃には辛い言葉だったんだよね。頑張ってきたんだね。」

花乃「映画とかでは、こういうの、美しいとか言うけど、美しいのかな、お母さんが花乃を守って死んじゃったのは、美しいのかな。」

普段笑顔で、明るい花乃からは想像もできないような大粒の雨を降らせながら話してくれた。

佑「美しくないよ、悲しさなんて美しくない、当人の気持ちを考えずに周りが勝手に美しいと決めつけてるエゴだ、そんなの間違ってるよ、」

正直、悲しいのを美しいまでとはいかずとも、見てしまうこともある。でもそれで花乃が傷つくのは違うと思った。


花乃「うん。ありがとう。佑はそういってくれるっておもってた。あのね、佑が空の話してた時に、私の考え方好きっていってくれて、話したくなっちゃった。だから勝手にこんな重いこと話しちゃった!ごめんね!」

佑「ううん。無理しないでいいよ、話してくれてありがとう。」

花乃「聞いてありがとう。雨止んだし帰ろうか!」

佑「うん。家まで送るよ。」

花乃「ありがとう。じゃあいこうか!」

佑「うん。」

そうして、涙で腫れた空の中水溜りができた花乃と帰ってくことになった。

帰ってすぐにケータイを確認すると優奈からメールが来ていた。女の子からメールが来ると期待してしまうもので、焦る心臓を抑えて開いてみると、『財布もらうの忘れた👛』と書いてあり、少しがっかりしながら『明日返す!』と送った。それからすぐ、『佑いたから今日楽しかったよ!また行こ!』と晴れやかな返事が返ってきた。それとともに少しどころではない心臓焦りが返ってきたが、『ありがとう!また行こうな!』と言う無難な返しをしてしまった。

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