第6話 ありがとう先生 🔪🔪🔪🔪🔪🔪

 風見鶏の住む二階建てのアパートは、閑静な住宅街にある。

 部屋はまだ引っ越して間もなく、片付いていないダンボールが積まれている。渦巻は、ここでわざと・・・転ぶ。


 するとダンボールの中身が飛び出し、風見鶏の下着が散乱する。


「……痛ぇ。ご、ごめんなさい、先生」

「きゃっ……う、渦巻くん、その頭に乗っているの、わたしのパンツ……」


 本来なら、こんなことはしたくない渦巻。だが、これをしなければ今後の未来に影響を及ぼすことを肝に銘じていた。


「……あ。これ、先生のですか」

「は、恥ずかしいから広げないで!」

「すみません。そんなつもりはなかったのですが……先生って、やっぱり大人なんですね。こんな派手なのを……」


「うぅ……恥ずかしい」


 頬を赤らめる風見鶏は、渦巻から下着を返してもらおうとしたが――その手を止めた。


「どうしたんです、先生」

「そうだ。今日のお礼がまだだったね。そのパンツはあげるね」

「え……」


 動揺を見せる渦巻。しかし、これは想定内だった。困惑しつつも彼は『秘宝』をポケットに丁寧に保存した。断じて欲望の為ではない。これは世界線に影響を及ぼす“アイテム”なのだから仕方ないのだ。渦巻は呪詛のように何度も自分に言い聞かせた。


「ところで、ご飯食べてく? それともお風呂がいいかな」

「まるで仲の良い夫婦みたいですね」

「……ふ、夫婦だなんて。でも、渦巻くんならいいかな。助けてくれるし」

「いや、俺なんて……」

「ううん、自信持って。君はやれば出来る子なんだから」


 狂気と凶器がなければ、風見鶏は女神のように優しい。今時の教師には珍しく誰にでも理解があり、柔軟な対応ができる女性だ。今日のクラス内でも生徒人気は高く、敬われ、慕われていた。

 だが、渦巻だけは風見鶏の本性を知っている。

 その病にも似た狂気を表に出せない為にも、彼は何度でも死に、何度でも先へ進み続ける。


「ありがとうございます、先生。俺、自信がつきました」

「その調子よ。じゃあ、ご飯にしよっか」

「はい、先生の料理楽しみです」


 風見鶏の料理は絶品である。渦巻は楽しみで仕方がなかった。


 しかし、渦巻は完全に油断していた。風見鶏が料理の為に包丁を握ると――部屋の空気がガラリと変わった。血の臭いなんてしないはずなのに、渦巻は背筋が凍った。


「…………っ!?」

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