第5話 先生のアパートへ 🔪

 渦巻は想定内・・・のトラブルに巻き込まれていた。

 放課後、帰宅しようと廊下を歩いていると女子が走ってきてぶつかってしまう。相手は三年の牧野という体操部の部長。明るく活発的であり、美少女の部類に入るが彼氏はいない。


 そんな牧野は、ひょんな出会いで渦巻に惚れてしまう。


 今まさに階段から落ち、頭を打ちつけようとしていた瞬間だった。けれど、渦巻はこの未来パターンを知っていた。だからこそ、彼女を助けられた。


 手を伸ばし、牧野を救う。

 これは三回目。渦巻は冷静ながらも彼女を気遣った。


「大丈夫ですか」

「……ご、ごめんなさい。前をよく見ていなかったので……」

「いや、いいんだ。俺の方こそ悪いし」


 牧野に大きな怪我はないと確認した渦巻は、その場を去ろうとする。


「あ、あの! お名前だけでも」

「俺は二年の渦巻」


 短く名乗って渦巻は早々に立ち去った。

 長居すれば風見鶏を逃してしまう。この先を急がないと男の先生が風見鶏を飲みに誘い、ホテルへ連れ込むという最悪な未来に繋がる。そのことを渦巻は痛い程に理解していた。


 失敗はもうしたくないと、彼は心に固く誓っていたのだ。


 全てのルートを正確に進み、校庭へ出るとそこに丁度歩く風見鶏の姿があった。渦巻は直ぐに声を掛けて自分を認識させた。



「あら、あなたは渦巻くんね。改めまして今朝はありがとう」

「先生、ご無事でなによりです」

「これから帰宅?」

「はい。そっか……あ、お礼もしたいし、先生の家に来ない?」


 渦巻はその言葉を待っていた。

 ここまで来れば特別な関係になれるからだ。幸せと、しかし殺される可能性も秘めている。それを承知で渦巻は風見鶏と恋仲となる。


 風見鶏のアパートは、学校から徒歩十五分ほどの距離にある。無論、渦巻は知っていた。何度も味わった風景。におい。風の感触。風見鶏の笑み。


(俺は……この幸せの為なら……何度でも死んでやる)


 包丁で腹部を刺され、激痛の地獄に叩き落とされる。その恐怖にも慣れた渦巻。


(正直、慣れたくないけど、いつか先生が正気になってくれたら……)


 その未来はあると信じて、渦巻は先へ進む。

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