第3話 美人先生との出会い 🔪🔪🔪

「悪い夢でも見ていたの?」と風見鶏は心配そうに渦巻の顔を覗く。エプロンを脱ぎ、渦巻の額に手を当てた。


「な……なんでもないよ」

「そっか。疲れているみたいだから起こさないでいたんだけどね」


 微笑む風見鶏は、渦巻を押し倒して覆いかぶさるようにした。

 逃げられないように恋人繋ぎをしていく。熱を帯びた雰囲気に渦巻は硬直。心拍数が酷く上昇して息が乱れた。


「せ、先生……なにを」

「渦巻くんからキスして欲しいの。先生を甘やかしてくれないと許さない」


 語尾に殺意が含まれていた。渦巻は背筋が凍った。もし逆らえば、また腹を刺されるだろう。しかし、それを抜きにしても渦巻は風見鶏に“特別な好意”を持っている。


 生徒と先生などという極めて異質な関係であり、しかも何度も殺されるという悲劇も繰り返されているにも関わらずだ。



 だから、何十、何百回地獄を見ようとも渦巻は仕方ないことだと半ば諦めていた。



 ◆



 夏季に入った七月。『風見鶏かざみどり かえで』と新しい担任の名が黒板に刻まれていた。


 彼女は、静かに迎えられた。

 長い銀の髪を短くまとめ、エメラルドグリーンの瞳で周囲を見渡す。しかも、恐ろしいほどの美人で、男女問わず魅了していたからだ。


 日本人離れした容姿に、誰しもが呆然ぼうぜんとなるばかり。


「今日より二年A組の担当をすることになりました、風見鶏 楓です。皆さん、よろしくお願いしますね」


 自己紹介が終わるとクラスは騒然となった。


「新任の先生可愛いー!」「美人すぎだろ」「そや、前の担任は交通事故で重傷なんだっけ」「そうそう、いきなりだよな」「外国人かなあ?」「日本人だろ。名前見ろって」


 にぎわう中、ひとりだけ教室内で静かに窓辺に視線を送る男子生徒がいた。風見鶏は、その男子が気になった。どうして彼は他の生徒と違うのか。

 輪に馴染めないのか、少し心配になった。


 けれど、男子生徒の視線が風見鶏に向けられた。

 不思議と高鳴る鼓動に戸惑う。


 いったい、彼は何者なのかと風見鶏は気になり始めていた。

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