第2話 先生の優しさ 🔪🔪

「…………ぅ」


 渦巻はもがき苦しんでいた。まるで溺れているような感覚。永遠の苦しみが繰り返されるようだった。

 苦しさはやがて薄まり、呼吸ができるようになった。


 ゆっくりと深呼吸して意識を取り戻していく。


(俺は……いったい……)


 記憶に混乱が見られる。

 なにもかもが曖昧で、自分がどうして自室にいるのか分からない状況だった。渦巻は半身を起こして朦朧もうろうとする意識の中で周囲を見渡した。


 すると、記憶が蘇ってきた。


(……あぁ、そうか。俺はまた・・刺されたんだ)


 少しずつ蘇る死の記憶。

 渦巻は何度も殺されていたことをハッキリと思い出した。そう、彼は恋人である風見鶏に何度も理不尽に殺されているのだ。


 何度も何度も。


 高校二年生である渦巻うずまき 螺旋らせんと、担任である風見鶏かざみどり かえでは幸せな同棲生活を送り、全てが順風満帆だった――はずだった。


 しかし、いざ同棲を始めれば待ち受けていたのは血塗れの愛。最初は本当に死んだと思った渦巻だが、目覚めたときには風見鶏が借りているアパートの一室に戻っていた。

 死ねばいつもこの部屋に舞い戻るのだ。


 理由は分からない。

 なぜか死ぬことなく風見鶏の部屋で意識を取り戻すのだ。


「今日は何日だ? 先生は……どこに?」


 立ち上がり、台所へ向かうと風見鶏の後姿があった。彼女は包丁を手にして、料理を作っている。


「あら……起きたのね、渦巻くん」

「せ、先生……?」

「どうしたの怖い顔して」


 渦巻は安堵した。

 いつもの優しい先生の表情かおがそこにはあったからだ。

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