華の蕾再び
「もう落ち着いたか?」
「うん、平気。」
鼻声で答える。
泣いていたせいで鼻が詰まっているのだろう。
「ごめんね、急に泣きついたりなんかして。いつもはこんなことないんだけど。」
きっとお互い体力を消耗してるのが原因だろうと思う。先程までの戦いが影響しているのかも。
「ひとまず落ち着いたがもう暗いし今日はうちに泊まってけ。」
「え!そんな、悪いよ…。」
「いつものお前なら俺が言わなくても当たり前のように泊まるはずだか?もしかしてさっきのでおかしくなっちまったのか?」
「うぅ…分かったよぉ。」
「それでいい、じゃあ風呂入ってこい。」
よろよろと七星は風呂場に向かう。
あ、燈鞠のこと七星に言うの忘れた。
「っていう夢を見たんだ。」
「ふーん、その夢ってさ本当の記憶なの?」
「ずっと忘れていた。笠野燈鞠は俺と同じ施設にいた。」
「彼女はどうして施設に?」
「虐待だって施設の職員が話しているのをこっそり聞いたことがある。実際燈鞠の体には多くの痣があった。」
「虐待…。彼女自身がカタマリとなった可能性も捨てきれないかも。」
七星は呟く。
「カタマリは人間の言霊から生まれるものだろう?どうやって人間の燈鞠がカタマリになるんだ?」
「珍しいケースだけど本来言霊として発せられるはずのエネルギーが放出できないことがある。」
「…そうなると一体?」
「対象の体にはそのエネルギーがどんどん蓄積されていく。そして限界を迎えると…カタマリになる。それもそこら辺にいるような雑魚じゃない。」
それはどうだろうか?
笠野燈鞠を殺害したのは倉田葵であることは間違いないはず。
だが倉田葵は元々良源系カタマリとして人間世界に紛れていた。もし本当に笠野燈鞠が七星が言ったようにしてカタマリになったとしたら、倉田葵のようなカタマリなんて相手にもならない…。
今思ったことを七星に話す。
「それじゃあ笠野燈鞠がわざと負けたとしたら?」
「何故そんなことをする必要が?」
「それは勿論、アダムの願いを果たすためでしょうね。」
…やっぱり。
「アダムの正体を突き止めない限りこの依頼は解決できないってことか。」
「えぇその通りよ。だからこれからたくさんのカタマリに話を聞くしかない。」
翌日から休む暇もなく手当たり次第にカタマリにアダムの事について聞いた。
しかしどんなに強いモノでもアダムの正体について知っているモノはいなかった。
アイツに会うまでは。
「ねぇアンタ、カタマリでしょ。」
路地裏にひっそりと佇む質屋。
そこの店主に七星は強気に言う。
「誰だぁアンタは?。」
「アタシは星影七星、訳あってアンタたちのトップについて調べてる。知ってること全部話して。」
店主はカウンターに肘をつき無言で手を差し出す。
「なに…?その手は?。」
「回答料3000円。出しな。」
「それは1つの質問につき?」
「当たり前だろ。早くしろ。」
財布から渋々3000円を取り出して店主に渡す。
金を受け取った店主は気だるげそうに膝にいる黒猫を抱えこちらへ向き直る。
ボサボサの髪に髭面の痩せぎす男。目は死んでいて、何もかもに興味がなさそうだ。
「で?その質問ってやつは一体?」
「その前にアンタも名乗ってもらおうか。アタシだってきちんと名乗ったんだから。」
店主は大きくため息を1つついてから言った。
「俺のことは…そうだな…
「分かったわ。それじゃあ桂龍アタシが質問したいことはたった1つ、あなた達のトップは一体何者なのかそして何を企んでいるのか。」
「おいおい、それじゃあ2つじゃねぇかぁ?」
「アタシにとっては1つの質問よ、さぁ答えて。勿論3000円の価値がある答えのはずよね。」
店主、桂龍はまた大きなため息をついた。
「分かった答えてやる。ちょっと待ってろ。」
そう言って桂龍は店の奥へ入っていった。
先程まで桂龍の膝に乗っていた黒猫がカウンターに飛び乗る。利口に座り大人しくしている。
「アンタたち、一体何しに来たのさ。」
不意に聞こえてきた声の主を探す。
「何を2人してキョロキョロしてんのさ我はここだ。」
声の主は黒猫だった。
「「うわぁぁぁ!!」」
2人して大声をあげる。
「うるさいなぁたかが猫が喋った位で騒ぐなよ。」
「驚くだろ!急に猫が喋り始めるんだぞ!」
「アンタは一体何者?」
「我は
「何ギャアギャア騒いでんだ、ゴキブリでも出たか?」
「いいとこに来たな桂龍。先程まで我のことをコイツらに話していたのさ。」
「自分のことを自慢するのはいいがあんま人のこと驚かせんじゃねぇぞ嶺秀。」
桂龍は何枚かの紙を持ってきた。
よく読むとそれはアダムについて調べた調査書のように見えた。
「これは…アンタたちカタマリなんじゃないの?」
「今はな、でも俺達はアイツに服従したわけじゃねぇ。まだ力を取り戻せてないだけだ。」
「力って…。」
桂龍が嶺秀に目配せする。すると嶺秀が話し始めた。
「我たちは元々神に近い存在だった。人間界で言う仙人のようなものだ。しかし我たちは禁忌を犯してしまったからに人間界に追放されてしまった。人間界を彷徨っているときに偶然出会ったんだアンタたちの言うカタマリのトップに。」
今度は嶺秀が桂龍に目配せする。
「人間界に追放されたせいで力を失った俺達は太刀打ちできなかった。カタマリにはされたものの幸い自我もしっかり残ってるし、この不老の力も衰えてない。だが俺らは他とは違う。アイツに感謝なんてしてないしさっき言った通り服従もしてねぇ、何なら俺らはアイツを殺したいとさえ思っている。毎日な、だからこれを作った。」
トントンと資料を指差す。
「読んでみたら分かるさ、そこの女が渡した3000円のよりよっぽど価値があるってね。」
七星は資料に目を通す。
そして驚いた様子で桂龍に問いかけた。
「ねぇ…アンタたちのトップってコイツなの…?」
わずかながら手を震わせている。
「え?あぁ名前も顔も正しい。なにか問題でも?」
「この人は…彼女は…。」
気になり俺も資料に目を通した。
そこには1枚の写真がクリップで止められていた。
写っている人は女性で少し癖毛の栗色の髪に丸眼鏡をかけている。丸眼鏡のせいで少し幼く見えた。
その写真の近くには彼女の名前だろうか。ペンでラインが引かれてある。
彼女は「綾瀬眞」と言うらしい。
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