あの方
「なんだか不思議、ずっと探してた人が実はずっとそばにいましたなんて小説とか映画の話みたいじゃない?」
そう言いながら七星は笑う。
「まぁ珍しい話ではあるよな。」
「あ、そうそう陽風から倉田ちゃんの話を聞いてずっと疑問に思ってた事があるんだけどさ、倉田ちゃんが言ってたあの方っていったい誰なんだろうね。」
「確かに。俺がソイツのこと聞いた時も小鹿みたいにガクガク震えて聞くのをやめろって言ってたんだよな。」
「そのくらいカタマリたちにとって影響がある人物なのかな?」
「1人目のカタマリ、つまり始祖とかはないのか?」
「分かんない。でもそれは一理あるかもね。」
「倉田は七星の事を夢の中に閉じ込めたのは言ってたあの方の願いを果たすためとかなんとか言ってたぞ。」
「願いを果たす…?どういうこと?」
首をかしげて七星は俺に答えを求めてくる。
「俺に聞くな、俺にわかるわけないだろ。」
「知ってた。じゃあ陽さんだったら分かるかな?」
自分の首元に下げてある勾玉に目をやる。
彼女の声に反応するように、うっすらと勾玉が光ったのに七星は気づいてないようだった。これは一体どういうことを伝えたいのかは俺にもわからない。
「反応なしか。陽さんは陽風にしか視えないし感じないのかな…。」
「さぁな、でも父さんはお前の事見守ってるってさ。」
それを聞いた途端まるで恋する乙女のように顔を赤らめた。
「結局、あの方はいったい誰なのか分からずじまいだな。」
「あ、えぇ!そうよね!頼みの綱の倉田ちゃんももういないし。どうしよっか。」
確かにそうだ。あの方、つまりカタマリの始祖を討たない限りは延々とカタマリは生まれ続ける。
だからこそ今すぐソイツが誰なのか突き止めないと。
「ていうか、いちいちカタマリの始祖とかあの方って呼ぶの面倒だから何か呼び方考えない?」
「ううんそうだな…。」
「…アダムってのはどうだ?」
「あ~いいんじゃない?始祖っぽい。」
「じゃあそれで。」
あれ?なんでアダムってなんだ?
なんで知らない言葉が出てきたんだ?どっかで聞いたっけ。
「問題は、やはりどうやってアダムを突き止めて追跡するかだな。」
「また…行くしかないのかな?」
実は…と七星は口を開く。
「
「それってカタマリがあの二人を殺したって事か?」
「えぇきっとね、でも倉田ちゃんとは考えにくい。」
「何故…?」
「理由は明白、彼女たちを殺す意味がないから。倉田葵はきっと一般人には手を出さないと思う。アタシたちを襲ったのはちゃんとした理由があってこその襲撃だったんだ。アダムからの命令を果たすため。それに彼女は元々良源系として生まれた存在だからね。」
「そうか…なら。」
「あの高校に人間に紛れて生活するカタマリがまだいるって事。」
「そうなら恐らく躊躇なく一般人に危害を加えることのできる存在ってことになるな。」
「話が早いね、さすが私のバディ。」
「それじゃあ話の早いバディにもう1つ質問。これからアタシたちはどうするべきでしょうか。」
まるで俺を試すかのように聞いてくる。実際試しているのだと思うが。
この言葉が何を意味しているのかは明白、彼女は俺がこれから起こりうる戦いについていけるのか心配なのだと思う。
だから
「俺たちはまず備える必要がある。」
「…何に?」
「勿論、これから起こりうる戦いに対してだ。きっとアダムは他のカタマリと比べてはるかに強い事なんて七星も分かってると思う。」
「えぇ。」
「だからこそ準備するんだ、俺たちは戦いに勝たなきゃいけない絶対に負けちゃダメなんだ。お互い守るべきものがある。それを守るためには死んじゃいけないんだ。」
「…そう、ね。」
「それにお前1人だけなんて絶対無理だろ?だから俺も行くよ。」
少しの沈黙の末ついに七星は口を開いた。
「ありがとう。」
彼女は泣いていた。
声を震わせながら何度も何度も感謝を口にする。
「おい…なんで泣くんだよ。」
「なんでもない、ただ嬉しかった。アタシ…すっごく怖いの、もしもアダムと戦う時が来たらアタシも陽風もみんなみんな死んじゃうんじゃないかって思ってる。だけどさっきの陽風の言葉で、アタシ怖くなんかなくなってきて、それが…それが嬉しかった。」
時々言葉をつまらせながら彼女は思いを口にした。
倉田葵が彼女を襲ったときから、いやもっと前からかもしれない彼女はずっと恐怖していた。『カタマリ』という存在に。
俺の胸に額をくっつけて泣いている。どうすればいいのだろう。
ー女の子が泣いてるときは黙って抱きしめてあげるのが男の子ってものよー
「アタシ…アダムに勝てるかなぁ?」
胸の中で小さく震える彼女をそっと抱きしめた。
「きっと勝てるさ。俺達2人なら。」
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