父さん

「ゔぅ…、貴様…何をした!!」

「父さんの勾玉、お前みたいな奴にも通用するんだな。凄っ。」


「何をしたと聞いている! 答えろ!」

 

 すっかり擬態が解けてカタマリらしさ満載の風貌になった倉田は怒鳴りつける。

 健康的な肌は一部が赤黒く変色し、欠損部も目立つ。


「何をしたと言われても…あぁお前のその腹の傷跡が答えだよ。」


 倉田の腹部を指さして言う。

胸部から骨盤にかけて広がる勾玉の跡。


「七星の勾玉が無ければ俺はとっくに死んでいた。俺は彼女を助けられなかった。」

「ぐっ、ゔぅ…。」



苦しそうにうめく倉田を横目に七星の元に駆け寄る。

 まだ目覚めはしないが先程よりかは顔色も良くなってきている。倉田の力が弱まっている証拠だ。


「おい、さっさと七星を開放してくれないか?開放しないというのなら俺はお前にもう一発お見舞いしてやるぜ。」

「誰が…っ誰がお前なんかの指示を…。」


困ったものだ。七星がいなければこの状況が変わることはない。


「それでは質問を変えよう。お前が言うあの方とは誰だ?」


 空気が歪んだ。比喩ではない。

実際に歪んだのだ。ぐわんと、めまいを起こしたかのように。


意識がっ…、まずい…。

能力を発動させる気か…!


 


「何故だ?あの方はお前なんかが顔を合わせて良いお方ではないぞ!!それに…あの方の命令は絶対だ…。あの方を裏切った日には…。」


凄い威圧感と倉田の能力によって体がこわばるのを強く感じる。

 その時背中から何者かに抱え込まれるような感覚があった。

振り返るとそこには、


「父さん!」

『僕の大切な息子にこれ以上危害は加えさせない。覚悟してもらうよ。』


そう言うと父さんは袖から何かを取り出した。

勾玉だった。

     七星に渡した勾玉だ…。

強く握り込むと青く光りだした。

さっきの光よりはずっと弱い光だったが、リビングの電気をつけていなくても分かるくらい明るかった。


『君はまだ弱い。君はまだ生まれたばかりだろう?だが、生まれたばかりで能力を持つとは…。』


素晴らしいと倉田を称えた。


『でもねもうお別れだ、君は人間を甘く見すぎた。次生まれ変わるときはこんな世界に足を踏み入れちゃだめだよ。』


優しく言うと目にも止まらぬ速さで倉田に近づき先程と同じように倉田の腹部に光る勾玉を押し付けた。


『ギャァァァァァァァァ!』


叫びながら倉田は身につけていた服だけ残して灰になった。


『ふぅ…、久々に動いたから疲れたなぁ。怪我はないかい?』

「う、うん大丈夫。父さんは?」

『僕のことは心配しないで。それよりもまずは七星ちゃんを心配してあげな。』


七星に目をやると能力が解けて目が覚めたようだった。




「う〜ん…あれ?なんで陽風…泣いてるの?」

「え?」


頬を拭うとその手が濡れていた。


「俺、なんで泣いてるんだろう…。」

「心配してくれたんだね。ありがとう。」


七星が頭を撫でる。不思議と嫌ではなかった。

後ろを振り向くといつものように優しく微笑む父さんがいた。


「どうしたの?後ろになにかいる?」

「…いやなんでもない。それよりもこれ。」


父さんの魂が宿った勾玉を手渡す。


「お前が悪夢を見ていたのは倉田の能力のせいだった。倉田を弱らせるのにちょっと借りた。」

「そう…なんだ。で、倉田ちゃんは…倒せたの?」

 「父さんが助けてくれた。」


少しの沈黙が流れた。


「え?お父さん…。」

「お前が持ってる勾玉には俺の父さんの魂が宿ってる。父さんはお前をカタマリから助けたあとお前に意志を託して逝った。」

「そう…ならここにはハルさんがいるんだね。」

「あぁ父さん、はるがいる。」

「また助けてくれたんですね。ありがとう。」


『陽風。』


父さんに呼びかけられた。


『七星ちゃんは僕の声がまだ聞こえない。でもねちゃんと七星ちゃんのことも見守っていると伝えて。僕は2人を応援しているよ。』


 父さんは切れ長の目をさらに細くしてそう言った。その頬には涙が伝っていた。


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