目覚め

 「あれ?いつの間に。」


空がもう暗くなっていた。こんなに寝てしまうとは。あれ、確か俺夢を見ていた。


「そうだッ!燈鞠!」


夢でみたアイツは確かに燈鞠だ。思い出した。燈鞠も元々同じ施設の人間だったんだ。早く七星に伝えなければ。


「七星!起きろ!重要なことを思い出した!」


起きない。七星は普段は眠りが深くないタイプだと聞いたことがある。こんなに大声を出しても起きないとはよほど疲れているのかな?


「七星!起きろ!」


やっぱり起きない。まずいなにかおかしい。こんなにも起きない七星は異常だ。

 それにずっとうなされているような…


「あれ〜?やっぱりわかっちゃいましたぁ?」


聞き覚えのある少女の声。即座に後ろを振り返る。

姿はない。


「この人は私の中でずっと苦しんでます。辛かった記憶をずっと私が反芻はんすうさせてるんですから。」


そう言ってクスクスと笑っている。


「お前、倉田葵だな!俺達に付きまとって何をするつもりだ!」

「そうですね、簡単に言うとですかね。」

「あの方…?」

「あら?ご存知でないの?フフッ。まぁあなたは人間ですから知らないのも仕方ないですね。」



彼女の言うあの方がなんだか分からんが七星がいないと俺は何もできない。

 せめてものなにかがあればいいんだが…。


周りを見渡す。これといったものはない。

こういうときのためにスタンガンでも買っておけばよかった。

 そうだ、七星の勾玉。これは俺の父さんから受け継いだもの、どれだけ強いカタマリの倉田でも弱らせることくらいはできるかもしれない。


「クソッ、これでも喰らえ!」


倉田に勾玉を突きつける。勾玉は激しい光を放った。それと同時に俺は幻覚を見た。







『良くやってくれたね、いい子だよ。陽風。』

「誰…。」


目の前に立つ黒い和装の男。そこから覗く腕は枝のように細く、雪のように白い。


『忘れてしまったのかい?悲しいなぁ…。』


そう言ってうつむく男。閃光によってまだ目がチカチカしているせいで顔がはっきりと見えない。


『まぁ無理もない。僕との記憶はあまりないか会いに行けなかったからね。ごめん。』

「いや、謝らないでくれ。そんなに悲しまれるとこっちも悲しくなる。」

『そうか、陽風は優しいね。』


何も言えなかった。

俺は優しくなんかない、そう言いたかった。

でも声が出なかった。


その時、どこからか風が吹いた。そよ風だった。

彼の顔がはっきりと映る。

彼の左目はまるで青空のように青かった。

まさか…。


「父…さん?」


俺がそう呼ぶと彼は嬉しそうに顔を上げた。


『やっと思い出してくれたね。陽風。父さんは嬉しい。』

「父さんなんだね。」

『あぁ、そうだよ。』


「それじゃあ一つ聞きたいことがあるんだ。」


そう言うと父さんはなんだいと優しく返した。


「ずっと聞きたかった。なんで父さんは俺と母さんを捨てたの?」


『っ!』

「なんで俺と母さんを置いて出ていったの?」


『それは…。』


彼の言葉が詰まる。


『それはだね、陽風…。』

「はっきり言って父さん。」




『それは陽風と月詠を守れないと思ったんだ。』

「え…、どういうこと?」


 『僕の家は代々星影を名乗る一族なんだ。君と行動をともにしてる七星ちゃんの遠い親戚みたいなものさ。俺の生まれた星影は霊媒業みたいなのを裏稼業としていた。』

「でも、調べてもそんな情報出てこなかった…。」


『だってもうそれは僕の代で絶えてしまったからね。僕の命が尽きたから。それにその情報を知るものは僕が生まれた星影の者しかいない。』

「え…、それじゃあ今話している父さんは何なの…?」

『これは七星ちゃんに託した勾玉に取り憑いた魂さ。形にするだけでも相当な力を使う。』


話が逸れてしまったねと父さんは話を元に戻す。


『七星ちゃんが霊力を持つのはきっと僕の一族の血がどこかで混ざりあった結果だと思う。これはあまり詮索しないほうがいい。面倒だから。』

「分かった…。」


『七星ちゃんと出会ったとき正直言って僕はもうギリギリの状態で戦っていた。これがその証拠さ。』


彼は自分の右目を指差す。


『産まれたときは両目とも青色だったんだけどね。霊力の使いすぎだ。誰にでも限度っていうものがある。君のお祖父ちゃんから聞いたんだ。青い瞳を持って産まれた星影の人間は両目とも黒く変色したときに死を迎えるらしい。』


『僕は片目しか黒くないだろうって言いたいんだろ?』


当てられた。さすが父親だな。


『あぁ確かに僕は片目しか黒くない。でも両目とも青い瞳だったときよりは格段と衰えてしまった。だから君と月詠を守るために同じ一族の七星ちゃんに託して僕は自害した。』


「そんな…そんなこと、しなくたって…。」

『陽風はそう思うのかもしれないが僕はそれが耐えられなかった。ごめんよ、だけどこれからはずっと見守っている。』


突然、地震のような揺れが体を襲った。


『カタマリが目を覚ましたかな。でもまだ七星ちゃんは目を覚ましてない。もう少しの辛抱だ。頑張れよ陽風。』

「父さん…!」


彼は優しく微笑んだ。青色と黒色の美しい瞳で。



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