疑問

 神田緋伊羅と佐伯璃依紗の死亡事件は当然マスコミは食いついた。死体が発見されたその日からどこのニュースもこの事件の特集ばかりだった。そんな中俺と七星は打ち合わせの為俺の自宅に集まった。


 「またやってるよ~このニュースいつになったら落ち着いてくれるのやら。」

そういいながら七星は自宅から持ってきたであろうお菓子を食べ続けている。


「しょうがないだろ笠野燈鞠と同じ学校でしかも同じ場所同じような殺され方をしてるんだ。マスコミも食いつかないわけにはいかないだろ。後1週間は様子見だな。」


そう七星に言い聞かせると七星は、そうよね~と言って再びテレビの方を向いた。

 

 そんな話をしながら2人でテレビ画面を眺めているとスマホの通知音が鳴った。見てみるとそれはファクターからのディスコードの着信だった。


 「悪い。仕事仲間から連絡が来たから部屋に戻る。何かあったら連絡してくれ。」

「おっけ~頑張ってね~。」


そう言っているが七星は俺に目もくれずにずっとテレビを見ている、正確にはぼけ~っとただ眺めているだけだ。七星の目元にはできていた。昨日のショックもあって眠れていないのは明白だった。


「疲れてるなら眠ってもらって構わないぞ、あまり眠れてないだろ。」

「うん、ありがとう。」


 自室に戻りパソコンの電源を入れて通話に入る。


『珍しいんじゃないか、お前から連絡寄越すなんて。』

『そうか?別にそんな珍しい事じゃないと思ったけどなぁ。』

『まぁいい、なんだ連絡寄越した要件は。』

『最近すげぇ話題になってる事件あるだろ?』

『あぁ、華の山高等学校でまた新しい死体が発見されたっていうアレだろ?』

『それだお前さぁちょっと前に華の山高等学校で最初に死体で見つかった誰だっけ女の子、結構かわいいのえっと~、か、かさ…。』

笠野燈鞠かさのひまりだろ?2年の。』

『あ~!そうそう、その子だよ!僕人の名前覚えんの苦手なんだよね。』

そう言いながらファクターは笑った。

 

 『んで話を戻すけど。』


急にさっきの笑い声が嘘かのように冷たく鋭い声で問う。一気に空気が凍りついたのがわかった。


『何って…前も言っただろ?霊媒師みたいな奴の助手してるんだって俺の事そんな信用できないのか?冗談きついぜ。』


この空気をなんとか和ませようと思って普段は滅多に言わない少しユーモアのあることを言ってみたが冷え切った空気が温まることは無かった。

 

 『だからその霊媒師みたいな奴ってなんなの?みたいなってことは霊媒師じゃないんでしょ。じゃあそれがなんなのか説明してくれよ。』

『そっそれは…。』

『僕さぁ正直言ってシーニーの事疑ってないって言ったら嘘になるんだけど。だってさ、なんでそんなにあの学校について調べようと思うわけ?それって正直言っておかしいと思っちゃうんだよね。』


俺が弁明をしようとするとファクターは食い気味で早口に捲し立てた。


『お、おいファクターなんかお前様子おかしいぞ。なんで俺が犯人扱いされなきゃいけねぇんだよ、訳が分からないんだが少しでもいいから俺の話を聞いてくれ。』

 

 ファクターは何度もこういう状況に自分や知り合いが立たされた時になると極端に被害妄想が激しくなるところがあった事を今思い出した。


『お前の話を聞いたっていつか証拠は出てくるんだぞ、だったらお前に話なんて聞く筋合いない気がしてるのは僕だけなのか?』


今回のファクターは特に酷そうだないつもはこうなっても一応俺の話は聞いてくれるが…。どうしたものか。このままじゃ俺がアイツに通報されてそのままお縄なんて事も十分にあり得る。今回のファクターの妄想が酷いのはきっと俺と七星が殺人事件に関わってると思ってるからだろうな。

 

 『お願いだから話を聞いてくれ!!俺は犯人じゃないんだ!!』

『うるせぇ!そのセリフを吐くのはな犯人以外いないんだよ!』

『だから違うって!』


 コンコンコンと俺の部屋の扉をノックする音が聞こえた。俺は一旦ファクターと言い争うのをやめて扉の方を見ると七星がパソコン画面に向かって叫んでいる俺を心配そうに見つめていた。それを見た俺は一旦ヘッドホンを外し通話をミュートにしてから七星の方に向き直った。


「どうしたの。大きな声出して、何かあった?」

「あぁ、まぁちょっとな仕事仲間から犯人って疑われててな困ってるんだ。」

「そう分かったアタシに任せて。」


そういうと七星はおもむろに俺のヘッドホンを分捕ると俺にミュートを解除するように言った。


 『こんにちは。初めましてアタシ北斗っていいます。』

『あ?誰だ、僕は今シーニーと話してるんだ邪魔しないでくれ。』


すると七星はクルっと俺の方を振り返って囁きながら言った。


「ちょっと、シーニーって何?」

「俺のネット上の名前だ。」

『それは申し訳ないわね今シーニーは部屋を出ててねすぐには戻ってこなさそうなのよ。』

 そう言いながら七星は近くにあった紙に何かを書きだした。


[この人はなんていう人?なんでこんな取り乱してるの?]

[こいつはファクター。こいつは元々こういう状況に立たされると被害妄想が激しくなる性格で多分今回もそれだと思う。けど今回は人が死んでるってのもあって俺だけじゃ対処しきれない。]

 

『一旦落ち着きましょうファクターさん。そんな取り乱しているといけませんよ。』

『なんで僕の名前を知ってるんだよ!それにアンタは誰だって聞いてるんだよ。』

『アタシは北斗です、霊媒師…みたいなことをしてます。』

『お前かシーニーが言ってた霊媒師もどきは霊媒師じゃないんだろじゃあ本当はなんなんだ。』

『あ~それ聞いちゃいます?実はアタシが祓ってるのは霊じゃなくて言霊から生まれた怪異なんです。でもそんなこと言ったって皆信じてもらえないから霊媒師って言ってるだけなんです。だからお手伝いをしてもらってるシーニーにもそう言うように言ってるんです。誤解させちゃって申し訳ないです。』

『そうだったのか…。ならなんでお前たちはあの学校について調べてる?』

『え?あぁ~。』


[アンタどこまで彼に話したの?]

[笠野燈鞠のことについて調べるのを手伝ってくれた奴もお前の暗号を解読してくれたやつもファクターだったからそれ位なら教えたと思う。]


 『依頼を受けたんです。その学校の校長から最近その怪異が視えだしたのに加えて生徒に危害を加えだしたからそれを祓ってほしいって言う依頼を受けたんですこれで分かってくれましたかね?』

『あ、あぁすまない。取り乱してしまって。』

『いえ分かってくれたのならそれでいいんです。それじゃ丁度シーニーが帰ってきたので変わりますね。

『お…おぅ。』


七星から受け取ったヘッドホンを耳につけ再びファクターに話しかけた。

 『落ち着いたか、ファクター。』

『あぁ、すまない取り乱した。』

申し訳なさそうにファクターが言う。

『別にかまわない。お前がこうなるのはいつもの事だろ?』

『え?僕こうなったの。』

 そうだったか?何度もあんなファクターをたくさん見てきた気がしたんだが…。

『まぁ、僕がシーニーに電話したのも取り乱したからだったんだ。本当に迷惑かけてすまなかった。』


そういってファクターは通話を切った。

 おかしいな。何度もこんなことになった気がするのに…。デジャヴってやつか?夢でみただけだったのかな。まぁ俺も最近夜遅くて朝早かったりしてたから疲れが溜まってるのもあるのかもしれないな。

 自室からリビングへ戻ると、七星はソファで眠っていた。起こそうと思ったがさすがに可哀想と思いそれをするのをやめた。

 七星を起こさないように静かに自室に戻ろうとすると、床がギィと軋んでしまい起こしてしまった。


「あれ!?寝ちゃってた?」

「いやそのまま寝てて構わない。疲れてるんだろ。」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えておやすみ~。」

 「ちょっと待て。」


俺は自室に戻りクローゼットから毛布を取り出して七星に手渡した。


「これかけて寝ろよ夏も終わってきて冷えるんだから。」

「ありがとう。何だか陽風お母さんみたい。」


そう言って七星は笑った。それにつられて俺も笑った。

 

「まぁ俺は部屋にいるから何かあったら呼べよ。おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

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