強い力

 気付けば日が暮れていた。

ガラス窓が橙色に染まる。今日は最悪の日だ。

これからは母さんが落ち着くまで病院にはあまり出向かないようにしよう。


コンコンッ

 小気味のいいノック音が部屋に響く。玄関のドアを開けると心配そうな顔をした七星が立っていた。

「どうしたの?連絡しても返事ないから。」

「悪い。何でもない頭痛がひどくてな。」

「そっか、薬は?」

「もう飲んだよ。さっきまで寝てたところだ。」

「本当?じゃあ悪いことしちゃったなぁ。」

 そう言って七星はすぐに帰っていった。


今日はどこにも行けそうにない。

本当だったら今日あの学校に行く予定だったが無理そうだ。申し訳ない事をしたのは俺の方だ。

 ベッドの上に寝転がって目を閉じる。頭の中で過去のことがぐるぐると廻って眠れる気がしない。かといって何か行動を起こせるほどの力さえ残っていない。


そう考えるうちに気づけば夜になっていた。少しだけおなかが減った。

冷蔵庫の中に入っていたゼリーを食べた。きっと明日なら行けるはずだから。



 気づかぬうちに眠ったようだ。時間を確認しようと思ってスマホを手に取ると同時に七星から電話がかかってきた。


 『もしもし、体調良くなった?』

『あぁ。1日寝たらだいぶ良くなった。心配かけてすまなかった。』

『いいのよ。アタシは陽風が元気ならそれでいいんだから。』

『そうか。ありがとう。』

『体調良くなったなら早速なんだけど、今からあの学校行こうと思うんだけど 

 大丈夫?お母様のお見舞いとかあるならあれだけど。』

『いや今日は元々何もないからすぐ準備する。でもこんな時間じゃまだ

 生徒たちは授業とか受けてるんじゃないか?大丈夫なのかよ。』


時刻は現在13時25分。まだ学生は学校にいる時間帯だ。


『だからこそ行くのよ。今日は倉田葵のことについて聞くの。生徒から直接ね。』

『なら今日はそれが終われば帰るのか?』

『いや、帰るは帰るんだけどすぐにまた18時ごろに行く予定。このことは関係者にはもう話してあるから心配しなくていいよ。』

『分かった。昨日寝落ちして風呂入ってないからシャワー浴びてから向かう現地集合でいいか?』

『了解、それじゃあアタシ先行ってるわね。じゃあ。』

『あぁ、また。』

 電話を切った。

さて、まずはシャワーを浴びなければ。


 バスルームから出て、髪をよく乾かしてからいつもの服に着替えた。

スマホをパーカーのポケットに入れて玄関に向かおうとしたときふと、自分のデスクに置いてあった七星の勾玉が目に留まった。

「陽風はアタシよりも強い力を持ってる気がするの。」

病院での七星の言葉を思い出す。強い力。ってなんだ。

まぁ念のため持っていくか。

 

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