逃亡

 この学校は4階建て校舎で教室が多くある本館と音楽室や家庭科室などがある特別棟があって俺は今特別棟3階の家庭科室にいる。

 さっき連絡したからすぐに救急車が来てくれるはずだ。包丁片手に廊下の様子を観察する。

長い間走ってこなかったから肺が痛い。教室の外からカラカラと金属を引きずるような音がしている。あの少女が俺を探しているようだ。

あの少女はなんなんだ。顔が見えなかったから誰なのかわからないしそもそも人間なのかも分からない。


カラカラ、、、

 

見つからないでくれ。

「あの人はもう使えないでしょ。あんな状態じゃ戦闘はできない。」

あの人って七星の事か。使えないってお前があんな風にしたんだろうが。

「だからいい加減出てきてくださいよ。苦しまずに死ねます。」

これバレるのも時間の問題だ。だったらもういっそのこと出た方がいいんじゃないか?

 うじうじしてても仕方ない。こんなのまるで昔の俺じゃないか。


「おい。出てきてやったぞ。」

少女の姿が目の前に現れる。

身長は155㎝くらいで真っ黒のフードのついたワンピースを着ている。

そして右手に握られているのが月明かりに照らされて光る金属パイプ。

パイプの先端には七星を殴った時についたであろう血痕がついている。

 だが俺は屈しない。昔の俺には戻らない。


「出てきてくれてありがとうございます。おかげで探す手間が省けました。」

「そうかよ。それはよかったな。ところでなんだがお前何者なんだ何の為にこんなことをする?」

少女は少し黙り込んだ後、自信なさげな声でこう言った


。」


「……そうか。でも方法じゃお前の望む平等な世界は手に入らないぞ。」

「うるさいッ!!!!」

突然少女が叫びだした。

「お前みたいなやつに何がわかるんだよ!!私の苦しみなんて誰にもわからない!!」

そう言うと彼女は大きくパイプを振りかざして俺に襲い掛かってきた。

「そうするなら俺もやらせてもらうぜ。」

包丁の刃を彼女に向けた。そして彼女の腕めがけて包丁を振った。


 彼女の腕を傷つけることに成功した。おかしい。

血が出ていない。その代わりに包丁は黒く朽ちてボロボロになっていた。

まるで何十年何百年と放置されたみたいに錆び、使い物にならなくなった。


 「私の体に金属は効きません。ですから。」

そういって少女は笑った。

「お前いったいなんなんだ。そのパイプもお前みたいな少女が軽々と持てるような重さじゃないだろ。」

「馬鹿にしないでください。私これでも力持ちなんですから。」

そう言ってまたパイプを振りかざした。

もう限界だ。さっきの攻撃で体力を使い果たしてしまった。

もういいや。人生に飽き飽きしてたところだし。死ぬか。







攻撃は当たらなかった。そっと目を開けるとそこには少女が立っていた。

艶のある栗色の髪の先は黄色に染まっている。俺のよく知る少女だ。

「なッ七星!なんでここに。安静にしてろって!!」

「アタシを、、置いて、、カッコつけるなんて、、絶対、、許さないから、、。」

七星は何とか最後の力を振り絞って立っているような様子だ。

「陽風、、アンタ、、何ボーっとしてんの、、肩、、貨しなよ、、。」

「仕方ないな。ほらよわがままお嬢。」

「なんで!!ちゃんと急所を狙ったのに!!」

「残念。私だから。」

七星は挑発するように言った。

「私はね、アンタなんかとは、、覚悟が違うのよ。それを覚えておきなさい。必ず、、またアンタに会いに来るから。」

するとパイプの少女は一瞬のうちに消えてしまった。まるで煙のように。七星は再び意識を失った。

救急車のサイレンが遠くから聞こえてくる。





現在時刻午後23時40分 -調査中断-



負傷者  星影七星(20)

    -金属パイプのようなもので頭を強く殴られたことによる軽度の脳震盪のうしんとう

       数日間入院し、経過を観察する。




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