21話 アメリアとノア

 アメリアを救出して、博物館に戻り、色々な人にお叱りを受けた。

 オリバー様とレオ兄様は王様たちと王城へ帰ることになり、アーサーとフレディとジョシュアとエドワードも帰路についた。

 私は、アメリアとノアさんと一緒にいた。博物館は修繕のため、当分立ち入りは禁止されるらしい。

 アメリアの両親は渋ったが、アメリアが一緒にいたいと言ったので、少し喫茶店に寄ることにした。

 博物館の近くにあるテラス席がある喫茶店に来た。パンが有名な店らしく、パンの匂いが立ち込めている。店内に入り、紅茶やパンを注文して、テラス席に行く。今回はノアさんも一緒に席についた。

「アビゲイル様、ノアさん。助けてくださり、ありがとうございました」

「いいのよ。アメリアさんが無事で良かった」

「アビゲイル様……あの」

 アメリアは両の人差し指を合わせて、もじもじした。

「アメリアと、呼び捨てしていただいてもいいですかぁ?」

「ん? ええ、いいわよ」

「ありがとうございますぅ! 嬉しいです」

 アメリアは目を輝かせて、私を見つめた。

「アメリア」

 私が彼女の名前を呼ぶと、元気よく返事をした。

 ノアさんの方を横目で見ると、私のことをじーっと見ていた。

 え、なんで?

「アビゲイル様、私のこともノアとお呼びください」

 え、でも、それは前に叶えたような。

「人前でも」

 にっこりと口が弧を描く。

「う……の、ノア」

「ありがとうございます」

 そんな話をしていると、紅茶とパンがやってきた。

 甘い香りのする紅茶と、少し塩味のあるパン。

 アメリアを探して疲れたのか、塩味をより感じる。

「ノアさんとアビゲイル様は、デートはしないのですか?」

「え! できるわけないでしょ。私にはオリバー様がいるのだから」

「聞き捨てならないお言葉ですね。私はデートしたいですが」

 ノアは、にこにこしながら、こちらを見続けている。

「でも……」

「アビゲイル様のお出かけを護衛しているという体でいけば、大丈夫ですよ」

「そうですね! いいと思いますぅ!」

 アメリアもなんだか、乗り気だ。

「アメリア、なんだか楽しそうね?」

「あ、ごめんなさい。秘密の恋って、素敵だなと思ったんです」

「そうかなあ。大変だけど」

 断罪されるかもしれない。もしかして、一家離散までありうる?

「私は幸せですよ」

 ノアは、さらりと言ってのけた。

 その後も、三人で話をしながら、食事をした。

「アメリアを家まで送りましょうか」

 私とノアは馬車でアメリアを家まで送り届けて、その足で私の自宅までノアに送ってもらった。

「アビゲイル様。どうかお一人にならないように。アルフィーは、まだあなた方を諦めていません」

「ええ、わかったわ」

 ノアは、少し心配そうに眉を下げたが、そろそろ帰らないとエドワードにどやされると言って、帰らせた。


「はあ。疲れた! でも、イベントが見れて良かったわ」

 私は自室に戻り、服を脱いだ。

「随分、ご機嫌だな。アビゲイル」

 低い男の声がしたと思って、ベッドを見ると、神様が寝転がっていた。

「か、神……は!」

 私、今、下着姿……!

「わー! 見ないで! 見るな!」

「人間の裸くらい何とも思わんが」

「私が嫌なの」

 神様は、仕方ないなと言って、反対側を向いた。

 私はまた見られる前に、さっさとネグリジェを着た。ネグリジェは、もう見られてもいい。ノアのせいで慣れてきた。

「それで、何の用ですか?」

「アルフィーという男のことでだ。 アメリアじゃ、役に立たん」

「アルフィー?」

「神と同じ髪と瞳をもつ者……」

 そういえば、そうだ。神様と同じ色をしている。

「銀の髪と黄金の瞳は、神しか持たない。なぜ、それを人間が持っているのか気になってな」

「それで私に何を求めているのですか?」

「アルフィーに事情を聞け。本人が自覚しているかは、わからないが」

「神様が会いに行けばいいじゃないですか」

「私は、転生者以外と話す気はあまりない」

「うーん」

 どうせ、捕まえるつもりだったし、用事が一つ増えてもいいのかな。

「わかりました。聞いてみます」

「頼んだよ」

 それを言って、神様はゆっくりと起き上がった。

「アビゲイル」

「はい」

「ノアという男が好きなのか?」

「は、はあ!? な、何を言っているんですか!」

「付き合っているとアメリアから聞いたよ」

「私には、オリバー様がいますし……」

「でも、秘密で付き合っている」

「それは、仕方なく。あの時はああ言うしかなかったので」

「ふむ。人間は面倒な生き物だな」

 神様は手を顎に当てて、首を傾げた。

「アメリアも……」

 神様は、少し俯いてから、こちらを見た。

「断罪されないようにな」

「え、ええ」

 神様の体が、スッと消え始める。

「またな。アビゲイル」

「はい……」

 完全に神様の体が消えて、ベッドはシワだらけのシーツが残っただけになった。

 私はそのままベッドに横になった。不思議な匂いがする。森のような、海のような匂い。嗅いでいると、とても落ち着く。

 私はいつの間にか寝てしまった。


「アビゲイル様、おはようございます」

「おはよう。ノア」

 教室に行くと、すでにノアがいて私の席の近くにいた。

 オリバー様も珍しく早く来ているみたいで、こちらを見ていた。目をカッと見開いて。

「オリバー様? おはようございます。どうかされたんですか?」

 私が聞いてもオリバー様は固まったままだ。

「ノア。オリバー様、どうかしちゃったのかしら」

「さあ、何ででしょうね」

 ノアはくつくつと笑った。何がおかしいのかな。

「オリバー様?」

 私はオリバー様に近づき、目の前で手を振った。

「……オリバー?」

 私は試しに、呼び捨てしてみたら、ハッと気付いたらしく、体勢を整えて咳払いをした。

「アビー、おはよう」

「おはようございます。何かあったのですか?」

「い、いや、き、ききき、君が」

 なぜかどもっている。

「あいつを、ノアを、呼び捨てしていたから」

 あー。あーあーあー。

 なるほど。

 オリバー様の前では呼ばない方が良かったな。しまった。

「ええっと。私の護衛をしてくれていますし、先輩とはまた違うかなと思いまして」

「そうか……そうだよな……そう……」

 オリバー様は自分を納得させようとしているのか、そうだとか、そうなのかとか言い始めていた。

「レオ兄さんのことも、いつの間にか兄様呼びになっていたし……」

 あ、レオ兄様の件も気にされているの。

 それもダメなのかー。

「いや、アビーが皆と仲が良いのは、良いことだ」

「そうですよ! そうです! 皆さんが仲良くしてくださってのことですよ」

 なんとか説得しないと。

「あいつと仲が良いのはダメだが」

 それは、やっぱりダメですか。そうですよねー。

「護衛なので、少しは仲良くしてくださった方がいいのでは?」

 ノアが、私とオリバー様の近くにやってきた。

「ぐぬ……だが、お前は少しでは済んでいないだろう!」

「少し、ですよ?」

 全然少しじゃない。キスまでしてます。

 あああ。オリバー様、すみません。ごめんなさい。

「護衛以外で、アビーに近づくなよ」

「それはできかねますが」

「近づくな!」

「……ふむ。納得いただけなくても良いですよ」

 これは、不敬だろう。前から、そうだけど。

 ノアとオリバー様が火花をバチバチと散らしていると、始業のベルが鳴った。

 一応、言い合いはそこまでという事になり、私たちは自分の席へついた。

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【未完】乙女ラグナロク〜断罪イベントを回避したくて動いてたら、イケメンモブ騎士に愛されちゃった!?〜 夜須香夜(やすかや) @subamiso

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