20話 アメリア救出作戦

 アメリアを抱えたまま遠くには行かないだろうと考えて、私たちは周辺の使われていない建物を探すことにした。

「確か、この近くに廃墟があった気がするのだけど」

 アーサーがこの辺りの地理に詳しいため、アーサーに案内をしてもらうことにした。

 私たち……ノアさん、オリバー様、レオ兄様、フレディ、ジョシュア、アーサー、エドワードの八人で行動するのは初めてだ。アメリアが危険に晒されている中だが、私の心は踊っていた。攻略キャラに囲まれている。ダニエル先生だけいないが。あの人は変だから、いなくて良いだろう。

 路地裏を歩いて数分すると、朽ちた建物が目に入った。瓦礫や植物に埋もれているが、なんとか原型を保っている。

「ここなら、隠れやすそうじゃない?」

 アーサーは指差して、言った。

「確かに、ここは潜伏しやすそうだな」

 レオ兄様は感心したように言う。

 アーサーは先に行こうとしたが、エドワードに肩を掴まれて止められた。

「アーサー様。ここからは私が先導します」

「では、私は後方を守りますね。アビゲイル様も後ろに」

 ノアさんに言われて、私は後ろにつくことにした。

 エドワード、アーサー、ジョシュア、フレディ、レオ兄様、オリバー様、私、ノアさんの順番で歩くことにした。建物までの道は狭く、獣道になっていた。

「フレディ様、足元に気をつけてくださいね。あと、迷子にならないように。それから……」

「ジョシュア! 子どもじゃないんだから、大丈夫だ!」

「それは、すみません。子どもみたいに怖がって見えましたので」

「怖がっていない!」

 フレディも怖がっているようだが、私も正直少し怖い。廃墟の中は暗そうで、誰もいない感じがして気味が悪い。

「アビゲイル様。怖いなら、手を繋ぎましょうか?」

 ノアさんが良い提案をしてくれた。怖いから、助かる。

「え、ええ」

「ま……」

「待て。なんで、お前がアビゲイルと手を繋ぐんだ」

 オリバー様が話始める前に、レオ兄様が口を出した。

「俺はアビゲイル様をお慕いしていますので、隙あらば触れたいと思っています」

「なんだと!」

「おい、お前!」

 レオ兄様とオリバー様が同時に叫んだ。

「おや。怖いですね」

「ちょっと……君たち、うるさいよ。ノアも、煽らないで」

 アーサーさんが振り返り、こちらを睨んだ。

「アルフィーに気づかれたら、逃げられるだろう」

 ごもっともだ。私たちは、顔を見合わせて、黙ることにした。

 建物の中に入ると、入り組んでいた。

 これは迷子になりそうだ。下に降りる階段、上に昇る階段、左右に分かれた廊下がある。

「これは、分かれて探した方が良さそうだな」

 エドワードが提案した。みんなは、それぞれ頷いた。

「どうやって分けますか?」

 ノアさんがエドワードに聞く。

「まず、戦力は分散した方がいいだろう。戦えるのは、俺、ノア、ジョシュア、レオ王子だろ」

「俺も戦える」

 オリバー様が答えた。

「実力は、先に話した四人の方があるだろう」

 レオ兄様が言った。

「ノアが一番アルフィーに対抗できるから、アビゲイルと一緒にいた方がいいだろう」

「そうですね。あとはエドワードさんが適当に決めてください」

 そう言われて、エドワードが決めてペアはこうだ。

 私とノアさん、オリバー様とレオ兄様、フレディとジョシュア、アーサーとエドワードだ。

 それぞれ上に昇る階段、右の廊下、左の廊下、下へ降りる階段へと行くことになった。

「アビゲイル。気をつけるんだぞ。その男にもな! 何かされたら、叫ぶんだぞ」

 オリバー様は心配そうに言ってくれたので、大丈夫ですよと返した。

 そして、私とノアさんは階段へと向かった。

 所々、穴が空いているので、それを避けながら昇っていく。見た目はオンボロだったが、中は意外としっかりしていて、崩れる心配は今のところなさそうだ。

「アビゲイル様。なぜ、アメリアさんを助けようと?」

「友人だからよ」

「騎士に任せれば良かったと思いますが」

 なぜだろう。首を突っ込まずにはいられなかった。アメリアは転生者で、私に出会うまでは寂しい思いをしていた。今も、ゲームの世界になかなか馴染めずに苦労している。私の前では、楽しそうにはしゃいでいるが、時折寂しそうな顔をする。

「早く側に行ってあげたかったの」

「そうですか。アビゲイル様のこと、さらに好きになりました」

 ノアさんはにっこりと微笑み、私の頬に触れる。

「そ、そんなこと言っていないで、探すわよ」

 私たちはアルフィーに気づかれないように、静かに歩きながら探した。階段を昇り終えると、大きな扉があった。

「ゆっくり開けますね」

 ゆっくりと扉を押したが、ギギッと擦れる音がした。

 扉を大きく開けると、中にアルフィーがいた!

 アメリアがすぐ側で縄で縛られて座っている。

「おや、見つかってしまったね」

「アルフィー! アメリアさんを返して!」

 私は思ったより大きい声で叫んだ。

「それはできないなあ」

「無理やり奪うまでですね」

 ノアさんは微笑みを浮かべたまま、アルフィーへと距離を詰める。

 アルフィーは立ち上がり、ノアさんから離れる。

 私は動けたので、アメリアに近づこうとした。

「アビゲイル様ぁ」

 アメリアが涙目になっている。早く助けないと。

 横目で見ると、ノアさんがジリジリとアルフィーを追い詰めていた。

「さっきのは本気じゃなかったのか! 興味深いね」

「どうでしょうね。アビゲイル様のためなら、強くなれるというものですかね」

 私はアメリアのところまで到達し、縄を解こうとした。固くて解けない。

「アビゲイル様! そのまま逃げてください!」

「そうはさせないよ」

 アメリアを立ち上がらせようとしたら、アルフィーが目の前に現れた。

「アビゲイル様!」

 ノアさんが叫ぶ。

 動きが早い。ノアさんの剣も避けるわけだ。

「アメリアはもらっていくよ」

「だ、ダメ……!」

 私はアルフィーの腕を思わず掴んでしまった。アメリアから離れるようにしたかったが、びくともしない。

「そんなにしがみつかれると照れてしまうなあ」

「アビゲイル様に近づくなあ!」

 ノアさんがこちらに走ってきた。いつもより言葉が荒い。

「おそ……くっ!」

 アルフィーが言葉を綴ろうとした時、突然ノアさんが目の前に現れて、アルフィーの体を剣が貫こうとした。

「ノア! やめて!」

 傷つけるのはダメ! そう思って、私は叫んだ。

 ノアさんは剣を止めた。切っ先は、アルフィーの体に触れている。

「危ないな……仕方ない。今日はこの場を去るよ」

 アルフィーはそう言って、跳び上がり、窓の縁へと腰を下ろした。

「怖い騎士がいない時にでも会いに行くよ。アメリア、アビゲイル」

 そう言って、外へと飛んでいってしまった。

「アビゲイル様。なぜ止めたのですか」

「人が傷つくところを見たくなかったの。それに、ノアに誰かを殺させたくなかった」

 私の手は震えていた。怖かった。ノアさんが誰かを殺すところも、アルフィーが傷つくのも嫌だった。

「俺は騎士ですよ。大切な人を守るためなら、人を殺します」

 ノアさんは私の頬に触れた。さっきよりも手が冷たい。ノアさんも本当は人を殺したくないと思っているはずだ。

「アメリアさん。大丈夫?」

「アビゲイル様ぁ。怖かったです! でも、アルフィーさん、世間話しかしなくて」

 ノアさんは剣で縄を切った。

 アメリアは自由になり、私に飛びつく。

「助けに来てくださって、嬉しいです」

「みんなも心配して来ているのよ?」

「みんな?」

 アメリアはきょとんとした顔でこちらを見た。

「さあ、みんなのところに帰りましょう」

 私たちは一階へと降りた。

 一階のロビーではみんなが待っていた。

「アビゲイル! アメリア!」

 オリバー様が駆け寄る。

「無事だったのか」

「はい。アビゲイル様とノアさんが助けてくださったのです」

 オリバー様はほっとした表情を見せた。

 みんなも嬉しそうだ。

「アーサー様。すみません。アルフィーは取り逃してしまいました」

 ノアさんは、アーサーに対して跪いた。

「いや、いいよ。アメリアが無事で良かった」

 アーサーはノアさんに顔を上げるように指示を出した。

「逃げ足だけは早いやつだな」

 フレディは悔しそうに呟く。

「次は、捕まえよう」

 アーサーはフレディの肩を叩く。

「ああ。そうだな。予告状が来たら、アーサーの騎士をもう何人か増やして配置するか」

「ノアみたいに動ける騎士がいればいいのだけどね」

「こちらも力を貸そう」

 レオ兄様が言った。

「アビゲイルも狙われているのだ。他人事ではない」

「助かります」

 アーサーとフレディは同時にお礼を言った。

 これは、もしかして、オリバー様やレオ兄様に隠れずに、アルフィーを捕まえるのに協力できるのではないか。

「私も! 手伝います!」

「アビゲイルはダメだ」

 オリバー様に食い気味に反対された。

「オリバー様……」

 私は瞳とうるうるとさせた。いつもの泣き落とし作戦だ!

「そんな顔をしてもダメだ」

 チッ。ダメか。

「とにかく、今は博物館に戻りませんか?王様もアメリア様のご両親も心配されているでしょうし」

 ジョシュアが提案した。

 私たちは、とりあえず、廃墟から出て、博物館へと帰ることにした。

 王様からは私はお叱りをいただいたが、アメリアの両親は喜び、お礼を述べてくれた。

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