19話 アルフィー現れる

 今日は、ノアさんを連れて、博物館に来ていた。アルフィーが現れる土曜日だ。

 いつ現れるかは、わからないので、朝から来ている。

「今日は、人が多いね。土曜日っていつもこうなのかな」

「そうですね。博物館は土日は人が多いようです」

 歩きにくい訳ではないが、人混みがある。

 フレディの話だと、何を盗みにくるかは、今回は書いていなかったらしい。そういうことは、たまにあるそうだ。アルフィー本人曰く、その方がサプライズ感があって良いと発言したことがあるそうだ。

「ノアは、どの品が盗まれると思う?」

「そうですね。ティアラだと思いますよ」

「え? ティアラ? この博物館の目玉の大きい絵画ではなくて?」

 博物館の隅に置いてある古びたティアラのことをノアさんは言っている。

 この博物館の目玉は、この国の城が描かれた絵画だ。持っていけないサイズではない。

 私は、それが盗まれると思っていた。アルフィーのように派手な人が、盗みそうだ。

 あの古びたティアラは、アルフィーっぽくはない。

「あれは、実はとても貴重なものなのですよ」

「そうなの?」

「ええ。実は……」

「あ! アビゲイル様ぁ!」

 私は話かけられて、振り向いた。

 アメリアがいた。

「アメリアさん。な、なんでここに?」

 今日という日にアメリアがいる。ゲーム通りに進むときは進むのだな。ゲームのシナリオ通りに行くなら、ここでアルフィーと初対面になるが、すでに出会っているので、どうなるかはわからないが。

「お父様とお母様と来ているのです。見聞を広めなさいって言われてるのです」

 後ろの方に立っているのが、アメリアの両親か。

「初めまして。アメリアさんの友人のアビゲイル・ウォーカーです」

「まあ、ご丁寧にありがとうございます。母のソフィーです。こちらは、夫のソル」

「アメリアをよろしくお願いしますね」

 二人とも品があり、礼儀正しい方たちだった。

「アメリア、せっかくご友人と会ったのだから、一緒に回ってもらうのはどうかな」

「はい! アビゲイル様がよろしければ、ぜひ」

 アメリアと一緒の方がアルフィーとの遭遇率は上がりそうだし、いざと言う時にノアさんにアメリアも守ってもらえる。

「ええ。一緒に行きましょう」

「やったー!」

 アメリアは嬉しそうに笑った。

「アメリア。はしたないわよ」

「あ、ごめんなさい。お母様」

 私たちはとりあえず、例の絵画のところに行くことにした。

「ええ! アルフィーさんが来るんですか?」

「アメリアさん。声が大きい」

「ごめんなさい。でも、何を盗みに来るのですか?」

「それがわかっていないのよね」

 二人でこそこそと会話していたら、フレディたちがこちらに歩いてきているのが見えた。

「フレディさん!」

「アビゲイル。やっぱり、来たな」

「ご、ごめんなさい」

「まあ、ノアがいるなら、大丈夫か」

「ええ。アビゲイル様には二度と指一本も触れられないですよ」

 ノアさんは、満面の笑みでそう答えた。

 今日はフレディはジョシュア、アーサー、エドワードと四人で来ていた。

 攻略キャラが揃い始めた。これで、オリバー様とレオ兄様、ダニエル先生が揃ったら、私としてはお祭り騒ぎだ。

 攻略キャラが揃い踏みになるのは、ゲームの中でもなかった。

 そう考えていると、博物館内がざわついた。

「何かしら」

「あっちの方が騒がしいな。アルフィーが出たのか?」

 私たちは人が多く集まり、騒がしくなっているところに行くと、オリバー様とレオ兄様たちがいた。

 本当に攻略キャラが揃ってしまった! すごい! ダニエル先生はいないけれど。

 王様と王妃様もいる。視察だろうか。

「アビゲイル! なぜ、ここに」

 オリバー様がこちらに気づいて、駆け寄ってきた。

「見学に来たのですよ。オリバー様は視察ですか?」

「ああ。アルフィーの予告状が来てな。父上と母上が見てみたいと、言うので」

 オリバー様は、ゲンナリした様子だった。王様と王妃様は、好奇心が旺盛な方々なので、苦労しているところもあるらしい。

 レオ兄様もこちらに駆け寄ってきた。

「アビゲイル、アメリアさん。今日はアルフィーがくる可能性のある日だ。早々に帰った方がいい」

 それは、ごもっともだが、アルフィーに会いたいというか、イベントを堪能したい。

 そういえば、ゲームの中のアルフィーは何が目的で、博物館に現れたんだっけ?

 その時、バリーンという音がした。ガラスか何かが割れた音だ。

 みんなで、音がした方を振り向くと、逆光でよく見えないが、人が立っていた。マントが風でなびいている。

「はーっはっはっは!」

 あ、この声は。

「はっはっはっは! 俺様を呼んだかい!」

 アルフィーだ。

 とうっと、言って、彼は飛び上がり、近くの展示台の上に乗った。お行儀が悪い。

「やあやあ。オーディエンスの皆さん。俺様のために集まってくれて、ありがとう」

 銀色の髪がサラッと揺れる。

「今日は、とある宝を手に入れに来た」

「おい! ぼさっとしていなで、捕まえろ!」

 レオ兄様が周りにいる騎士たちに向かって、叫んだ。

「レオ王子。なぜか体が動きません」

「なんだと! まさか、これが聞いていた魔法か」

「はーっはっはっは! 脆弱な人間たちだなあ」

「そうですかね?」

 ノアさんには、やはり魔法が効かないのか、ノアさんは素早く動き、アルフィーに剣を向けた。

「この前の騎士か」

 アルフィーはそれを避ける。

 剣の切っ先がマントに触れて、破ける。

「悪いが今日も構っている暇はない」

 アルフィーは展示台から降りて、アメリアの目の前に降り立った。

「え?」

「聖女アメリア・ミラー。あなたをさらいにきた」

 そうだ。思い出した。ゲーム内では、アルフィーはアメリアをさらうために博物館へ来ていた。

「聖女? 私が?」

「まだ覚醒はしていないが、あなたはまごうことなき、聖女」

 アルフィーはアメリアの手をとり、キスをした。

「アメリア!」

 オリバー様は叫ぶが、魔法のせいなのか動けない。私もそうだ。

 ノアさんとアルフィー以外は、この場では動けなくなっていた。なんて強力な魔法なのだ。

「よそ見は禁物では?」

 ノアさんは剣を振るい、アルフィーはそれを避ける。それと同時にアメリアをお姫様抱っこして、展示台に再び乗った。

「当たらなければ、どうということもないな」

「それは残念ですね」

 ノアさんは、再びアルフィーに剣を向けようとして、構えた。

「アメリアさん!」

「アビゲイル様ぁ!」

「今日は、彼女だけにしておこう。次はあなたをいただくよ。アビゲイル」

 そう言って、アルフィーは窓へと飛び移り、そのまま、下へダイブした。

「逃すな! 動けるようになったら、追え!」

 レオ兄様は叫び、少し間を置いてから、騎士たちは動き出した。

「ノア」

「なんでしょうか。アビゲイル様」

「私たちも追いましょう」

「危険ですが?」

「あなたがいれば大丈夫。そうでしょう?」

 ノアさんは一呼吸考えた仕草をしてから、了承した。

「アビゲイル様のためならば」

「俺たちも行くぞ」

 フレディがそう言った。

「はい。アメリアさんを助け出しましょう」

 私たちが駆け出そうとすると、オリバー様とレオ兄様が近づいてきた。

「アビゲイル! どこに行くつもりだ」

「アメリアさんを探します」

「ダメだ。危険すぎる。あいつは、君も狙っているのだぞ」

「ノアさんたちがいるので、大丈夫です」

 オリバー様は、私の周りにいる人たちを見渡した。

「それなら、俺も行く」

「オリバー様。それはダメですよ。あなたは王子なのだから」

「行く。アメリアを放って置けない」

「オリバーが行くなら、俺も行こう。オリバーよりは戦う心得があるからな」

 レオ兄様が腰にある剣に触れた。レオ兄様は、剣の達人に近いと言われているが、振るっているのは見たことがなかった。ゲーム中でも、その才を発揮することはなかった。

「レオ兄さん」

「わかりました。レオ兄様がそこまで言うなら、みんなで探しに行きましょう」

 私たちは、アメリアを助け出しに行くために、博物館から急ぎ足で出ることにした。

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