12話 神様発見!?

 今日は放課後にアメリアと町へ遊びに行く日だ。護衛をつけないといけないので、それはノアさんに頼んだ。でも、アメリアが二人きりが良かったと呟いたので、ノアさんにはつかず離れずな距離で護衛してもらうことにした。

 そういえば、アメリアと出かけるとオリバー様に言った時、俺も行くと言っていたが、アメリアのために断ってしまった。オリバー様、むくれてないかな。

「アビゲイル様ぁ。今日はカフェに行ったり、アクセサリーや雑貨を見ましょう。あと、噴水広場でお喋りしたいです」

「ええ。そうしましょう」

 私たちは馬車を降り、露店が並ぶ通りに出た。

 私たちは制服のまま、町へ来た。ノアさんもそうだ。

 露店では野菜や装飾品などが売られている。

「色々と売っていますね」

 アメリアは、キョロキョロと辺りを見渡した。

「アメリアさん。そのような振る舞いはダメよ」

「え?」

「周りをキョロキョロ見ないの」

「はぁい。わかりました」

 アメリアは気のない返事をした。

 私はため息をつきたいのを抑えた。

 その時、私の目に、青い宝石がついたネックレスが見えた。

「綺麗ね」

「おや、お嬢さん。お目が高いね! うち一番の品だよ。アクアマリンのネックレスさ」

 アクアマリンのネックレス。

 ノアさんの瞳に似ている。

 私はそのネックレスから、目が離せなくなっていた。

「アビゲイル様に似合いそうですね! 買うんですか?」

 アメリアに話しかけられて、ドキリとした。

 ノアさんの瞳の色と同じネックレス。なんだか恥ずかしい気がした。

「悩んでいるのですか?」

「ひゃっ!」

 ノアさんがいつの間にか背後にいた。耳元で話されたので、驚いてしまった。

「え、ええ」

「あー! ノアさん。今日はアビゲイル様と二人にしてくださるって言っていたじゃないですか」

「少し気になりましたので」

 ノアさんは、ネックレスをじっと見つめた。

「店主。こちらのネックレスをください」

「お! 兄ちゃん、お嬢さんにプレゼントかい?」

「そうですね。そのままいただいても?」

「おう! いいぜ! 今、つけてあげな」

 ノアさんは、店主に銀貨の入っているであろう袋を渡し、ネックレスを受け取った。

「アビゲイル様。つけますね」

「え? で、でも」

 ノアさんは、私の首にネックレスをつけてくれた。手が首にあたり、そこが熱を持った気がした。

「美しいです。似合いますよ」

 ノアさんは私の肩口から顔を出し、笑った。顔が近い。

「ありがとう……」

 私は恥ずかしくなり、俯いた。

「アビゲイル様ぁ。素敵です」

 アメリアも褒めてくれた。

 素敵なら良いかな。

「ありがとう。アメリアさん」

 私たちは店主に挨拶をして立ち去り、他の露店も見ることにした。ノアさんは、先程と同じように後ろへと下がった。

 装飾品や雑貨をたくさん見た。アメリアは、子どものようにはしゃいでいた。

「アメリアさん。楽しい?」

「ええ! とっても! あの時からずっと心細かったから」

 あの時とは、記憶が戻った時だろうか。

「アビゲイル様と同じ境遇で嬉しいです」

「私もよ」

「あの、手を繋いでくれませんか?」

 アメリアは、おずおずと手を差し出した。

「ええ。もちろんよ」

 私はその手を握った。アメリアも握り返してくれる。

「ごめんさない。少し緊張していて、汗かいてるかもです」

 確かに、少ししっとりしている。

「大丈夫よ」

「そうですか? それなら、良かったです」

 アメリアは安心したかのように、呟いた。

 次はカフェに行くことにした。

 カフェの中は、少し混んでいたが、すんなりと座れた。私たちはテーブル席、ノアさんはカウンター席に座った。

「メニューたくさんありますねえ」

「そうね。お友だちと、こうやってお茶をするの初めてだから、楽しい」

「本当ですか! 嬉しいです」

 私はサンドイッチを、アメリアはバター付きのスコーンを頼んだ。紅茶は、甘い香りのするものを、ミルク付きで。

 料理が運ばれてきて、アメリアはスコーンを小さくちぎり、バターをつけて口に入れた。

 美味しそうに食べている。

「おや、アメリア。お前はいつも美味しそうに食べるな」

 アメリアの後ろに立っている男性……声は低めだし男性か。男性が話しかけてきた。銀の長い髪を後ろに一つに束ねていて、金の瞳をしている。カラーリングはアルフィーと一緒だ。長い髪は、腰まできそうだ。

「あ、あああ、か、神さ……」

「その言葉は、禁止だよ。今日はデイビットとお呼び」

「は、はあ」

 神と言ったか。この男……神だから男も女もないのか、この人が神様なのか。

 美しい顔立ちで、目を惹く姿で、目立っている。見惚れてしまいそうだ。

「アビゲイル様。こちらは」

 声をかけられて、はっとした。ノアさんが私の椅子に手をやった。

「あ、私の知り合いなんですう。デイビットさんです」

「そうですか」

 そう言って、ノアさんは元のカウンター席に戻った。

 神様は、私とアメリアの間にある椅子に腰掛けた。

 軽やかに、コーヒーを頼んでいる。

「アメリアが昨日、アビゲイル様と遊びに行くんですう! ……って言ってたから、気になってね」

 アメリアの声真似をして、神様はそう言った。

「あなたがその……そうなのですか?」

「気を使ってくれて、ありがとう。君の思っている通りだよ」

 神様は、やってきたコーヒーをゆっくりと口に含む。

「デイビットさんは、昨日も突然やってきたんですよ。アポくらいとってほしいです」

「アポとって来れるほど、暇じゃないんでね」

「いつも暇そうにしてるくせに」

 そう言ったアメリアの皿から、神様はスコーンを一欠片とった。

「あ! 私のスコーン!」

「減らず口を言うのが悪いのさ」

「むう……」

 アメリアは頬を膨らませた。

「アビゲイル。君が元気そうで、良かったよ」

「はい……」

「アメリアは、君と友だちになれたと言うまでは、ずっと塞ぎ込んでてね。なだめるのが大変だったよ」

 私は、疑問に思っていた事を全て神様にぶつけたかったが、色々ありすぎて、どれから聞けばいいか迷ってしまった。

「あの、聞いてもいいですか」

「いいよ」

「どうして、私の目の前には現れてくれなかったのですか」

「君がとても強い女性だと知っていたからだよ。私がいなくても、大丈夫だろうとね。その代わりに、アメリアは心配しかなくてね」

 それには私も同意見だ。アメリアは、神様がいなかったら、途方に暮れていたのが容易にわかる。

「それから……」

「今日は、ここまでだよ。アビゲイル。後ろの彼の視線が痛くてね」

 神様は後ろの人に見えないように、後ろを指差した。

 ノアさんが、ずっとこちらを見ている。警戒してくれているのだろう。

 アルフィーに似たカラーリングだから、疑われてるのかも。

「じゃあね。アメリア、アビゲイル」

 そう言ってコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がった。

 注文票をひょいととる。

「アビゲイルのために、今日は私の奢りだよ」

「ありがとうございます」

「デイビットさん。ありがとうです」

 神様はウインクをして、そのままレジへと行ってしまった。

「綺麗な人……人じゃないけど」

「全然綺麗じゃないですよう。意地悪なんですよ!」

「そう? 優しそうだったよ」

 アメリアは首をぶんぶんと横に勢いよく振った。

「アビゲイル様の前だから、猫被ったんです。昨日も……」

 アメリアは、昨日神様に言われた事をつらつらと言い始めた。

 私は、聞きたいことが聞けなくて、消化不良だった。

 なぜ転生したのか、ゲームのシナリオ通りに進まない理由や、キャラたちのシナリオ通りじゃない行動。

 他にも転生者はいるのかとかも、気になる。攻略キャラたちは、そんな感じはしないけど、誰かが転生者かもしれないし。

 気になることばかりで、今日は眠れないかもと考えた。

 その後は、少し上の空のまま、アメリアと楽しく過ごした。

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