7話 怪盗アルフィー登場!!

 二十分くらい経った頃だろうか、大きな走る音が聞こえた。

 ドアから覗こうかなと、立ち上がったら、オリバー様に止められてしまった。

「アビゲイル。不用意に動くな。アメリアさんも」

 アメリアは私に続こうとしていた。

 オリバー様は、俺が見てくると言い、教室のドアを少しだけ開けて覗いた。

「あ!」

 オリバー様はそう言って、ドアをもっと開けた。

「お前……」

 廊下にはノアさんとエドワードが立っていた。

「オリバー王子。アーサー様を見なかったですか」

 ノアさんは息を切らしながら、聞いた。

「いや、まず、アーサーという人を知らない」

「そうですか。あの方、無口で無愛想な癖に、色々なことに首を突っ込みがちなんですよね」

「主人の事を悪くいうな。アーサー様は少し無口で冷静なお方だ」

 エドワードはそう言って、ノアさんを小突いた。

「さっきの大きい音が何か知っているのか」

「私たちは知らないんですよ。先生方も、音の出どころを探っているようです」

 ノアさんが答えた。

「そうか……」

「では、俺たちは失礼し……」

 その時、パリーンと窓が割れる音がした。窓の方を見ると、人が宙に浮いていた。ここは三階だ。

 そして、その人は……アルフィーだった。隠し攻略キャラの一人で、仮面をつけている。仮面の隙間から、金色の目が見え、さらさらの短い銀髪が風になびく。

「はーっはっはっは!」

「誰だ!」

 オリバー様が叫んだ。

「はーっはっはっは! 俺様が誰かだと! よくぞ聞いた!」

 そう言って、アルフィーは教室の中へジャンプして、教壇の上に乗った。

 派手な赤いマントをひるがえして、人差し指を立てて、上に掲げた。

「俺様は怪盗アルフィー様。気軽にアルフィー様と呼べ」

「は、はあ?」

 エドワードが困惑していた。

 私はアルフィーのセリフより、アルフィーの登場が早いことが気にかかった。登場は確か、五月くらいだった気がする。まだ、四月だ。やっぱり、シナリオが変わってるのか。

「おや? おやおやおや!」

 アルフィーは教壇から、降りて、こちらにカツカツと靴音を鳴らしながら、歩いてきた。

 アメリアの前まで行き、立ち止まった。

 アメリアはすっかり怯えていたので、アメリアとアルフィーの間に私は移動した。

「彼女に近づかないでくれる」

「おや、威勢のご令嬢だな」

「アビゲイル!」

「アビゲイル様!」

 オリバー様とノアさんがこちらに駆け寄ろうとした途端、二人の足が止まった。

「なんだ。動けないぞ」

「魔法ですか」

「御名答」

 アルフィーは拍手をした。

「俺様の完璧な魔法をお披露目してしまったな。はーっはっはっは」

 そう言った後、さてと言い私をジロジロと舐め回すように見た。

「可愛いなあ」

「は?」

「うん。可愛い。後ろの女性に用があって来たんだけどさあ。君、可愛いね」

 褒められて、悪い気はしなかったが、アルフィーのことだ。絶対に良いことはない。

 アルフィーは隠し攻略キャラで、もう一人の隠し攻略キャラを含めた七人全てを攻略したセーブデータをデリートすることを条件に攻略できるキャラだ。性格は俺様唯我独尊トラブルメーカー。他の攻略キャラのルートでも、気にせず暴れまくるキャラだ。アメリアを聖女として手に入れるために、よく現れていた。

「お褒めいただき、ありがとうございます。それでは、オリバー様とノアさんの魔法を解いてください」

「ダメだよ。君たちに触れようものなら、殺してやるって目をしているしさあ」

 オリバー様とノアさんは、アルフィーをじっと睨んでいる。

 エドワードも動けなくされたのか、教室の入り口から微動だにしない。

「さあ、俺様のものになるんだ」

 アルフィーが私の顎に手をやった瞬間、アルフィーの頬に剣が当たった。

 ノアさんが動いて、剣を向けていた。

「おや? なんで動けるのかなあ」

「アビゲイル様から離れろ」

「動ける騎士とやり合うほど、俺様は馬鹿じゃない」

 アルフィーは手を上げ、剣とは逆の方へずれた。

 ノアさんの剣はそれを追うが、捕らえる前にアルフィーは窓へと飛んだ。窓枠に足をかけている。

「聖女もそちらの女性も手に入れるが、今日はここまでとしよう。はーっはっはっは」

 アルフィーは、くるんと後ろに落ちたかと思えば、何か魔法の力で宙を飛び、飛んで行ってしまった。

「う、動けるぞ。……アビー! 大丈夫か」

 オリバー様が動けるようになり、近づいた。その前に、ノアさんが立ちはだかった。膝まずき、私の手を取った。

「私がいながら、すみません。油断してしまいました。アビゲイル様」

 そう言って、私の手の甲にキスをした。

 顔が赤くなるのがわかる。

「お前!」

 オリバー様がノアさんの肩に掴みかかった。ノアさんはそれを横目で見ただけだった。

「アビゲイル様。私を許してくださいますか?」

 オリバー様を無視して、私に話しかけた。

「許すも何も、怒っていません」

「そうですか」

「助けていただき、ありがとうございます」

 ノアさんは頭を深く下げた後、立ち上がり、身なりを整えた。

「ノア。お前、なんであの時動けた」

「……アビゲイル様を思う気持ちが何か作用したのでしょうか」

 ノアさんはわからないなという風に首を傾げた。

 怪しい。ゲームの中では、愛の力でなんとかなる場面などなかった。きちんとパラメーターを上げて、覚えるスキルを覚えて対処していった。

 ノアさんは、怪しいところが多い。お菓子をたくさん買えると言ってきたり、特注の指輪を買っていたり、魔法で動けないはずなのに動いたり。

「今回だけは、お前に感謝する」

 オリバー様はそう言って、私とノアさんの間に入った。

「だが、不用意にアビゲイルに近づくな。いいな」

「私の愛が止まらぬうちは難しい話ですね」

「何だと!」

「まあまあ、お二人とも落ち着いて」

 オリバー様とノアさんの間にひょっこりとダニエル先生が現れた。

「ダニエル先生!」

 オリバー様は驚いた様子を見せたが、ノアさんは平然と先生を見ている。

「怪盗が現れたと、他の生徒から聞きました。皆さん、怪我はありませんか?」

 大丈夫ですと、生徒たちが口々に言った。

「アビゲイルさんと、アメリアさんは、大丈夫ですか?」

 ダニエル先生は、もう名前を覚えてくれていたのか、私たちを名指しして心配してくれた。

「大丈夫です」

「私は何とも。アビゲイル様が守ってくださったので」

「おや、アビゲイルさんは勇敢ですね。ですが、女性なので、あまり無理をしないように」

「すみません」

「お友だちを守るという気持ちは大切にしてくださいね」

「はい」

 ダニエル先生は、授業にはならないのでみんなに自宅に帰るように言った。

「ノアさん、エドワードさん。アーサーさんのことは?」

 二人は私の発言にハッとして、慌てたように廊下に出ようとした。

 すると、ダニエル先生が声をかけてくれた。

「アーサー・スミスくんなら、職員室でこってり絞られてますよ」

「あー。やっぱり」

「また、無茶をしたんでしょうね」

 それを聞き、二人は足早に去っていった。


 馬車を待つ間、アメリアとオリバー様と話していたら、ノアさんがやってきた。

「お前、性懲りも無く」

「心配で来たのですよ。アルフィーという怪盗が来ても私が守りますから」

 ノアさんは、ゆっくりと顔を近づけにきた。そして、耳元で呟く。

「あなたをさらうのは俺だ」

 ゆっくりと顔を離し、にっこりと笑った。

 オリバー様がそれを見て、怒っているが、ノアさんは意に介さず、私の隣へ立った。

 私は顔が熱くなるのを感じた。ノアさんの声はずるい。ゲームの時、モブ騎士にはキャラクターボイスはついていなかった。しかし、今は生身の人間なので声付きだ。いつもより低い声を出されると、甘く溶けるような感じがする。

 私って、声に弱いのかな。オリバー様は少し高めの少年声だし、エドワードは元気な声。どちらも嫌いではないが、ノアさんには負けるなと思った。

「馬車が来るまでの間、お守りするのをお許しください」

「え、ええ」

 私はなんだか恥ずかしくて、ノアさんの顔を見ることができなかった。

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