第3話

 王立学園に入学した。

 異性の数が多すぎて私には地獄だった。

 相手の目に私が入れば、必ず『』が聞こえる。


(あんな令嬢いたか? 庇護欲をくすぐるな)


(儚げで可愛らしい令嬢だ。どこの家だ?)


(隣にいるのはカーティス伯爵子息か……)


 無意識にぎゅっと胸を抑える。隣を歩くメルが心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「ヴィー? 大丈夫?」

「うん。大丈夫……」

「無理しないでよ?」

「分かってる。メルは心配性だね」

「ヴィーは、すぐに無理するから」

「そういうメルだって、最近、声がガラガラじゃない。風邪引いたの? 疲れてるんじゃない?」

「大丈夫だよ」


 メルはムッと口を尖らせた。


「ヴィーに心配されるなんて、何だか癪だな」

「何よ? それ?」


 そういえばメルにも確認したいことがあった。例の茶会で令嬢達が言っていた。攻略対象以外は、皆、転生者だ、と。


 ――ということはメルも転生者なのでは? 


 しかも私と同じで能力を持っている。確認したかったが、今まで話すチャンスがなかった。


「ねぇ、メル」

「ん?」

「メルは転生者なの?」

「――え? 何、それ?」

「分からないの?」

「……うん」

「そっか。ならいい」


 ――それって……メルは攻略対象ってこと? メルが王子に攻略されるってコト!? ひっ、ひぇ~っ。どうしよう。でもメルも女の子として幸せになって欲しいし……よしっ! 大親友の幸せのためなら! もし王子が接近してきたら、ちゃんと協力しよう!


 私が鼻息を荒くしていると、眉間にシワを寄せたメルが緩く睨み付けてきた。


「ねぇ、ヴィー。何か企んでるでしょ?」

「なぁんにも?」


 ニヤけてしまう顔を抑えながら答えると、メルは『はぁ』と一つ大きな息を吐き出した。


「いいよ。ヴィーが具合悪くないなら」


 そういって私の頭をポンポンと撫でた。


 ――あれ? メルって、こんな背高かったっけ?


 いつの間にか少し見上げるくらいに身長差が出来ていた。スラリとしたメルは昔の可愛らしさよりも男の子としての格好良さの方が勝っていた。


 ――メルが男の子だったら良かったのに。


 心の中でそっと呟いた。




 同じクラスになったエリー嬢からゲームの内容を詳しく聞き出す。


 主人公の名前はウィルフレッド・エスタンシア。

 このエスタンシア王国の第一王子だ。

 攻略対象は公爵令嬢、侯爵令嬢、伯爵令嬢、平民出身の男爵令嬢、聖女。そして、隠しキャラ。

 彼女はゲーム自体をやったことがないそうで前世で幼馴染みの彼がやっているのを見たことがあるだけだと言っていた。

 だからストーリーも、攻略方法も、隠しキャラが誰なのかも、知らないという。


「そもそも男の子向けだったからね。私はやりたいと思わなかったわ。多分、他の子たちも同じね」

「そっか……」

「男の子に聞いてみたら? もしかしたら経験者がいるかも」

「お、男の子……」


 ――私には無理だ……


 心の中の声は私に対しての感情に限られるし、近くにいって聞いてみることも出来ない。

 行き詰まってしまった。


 もしかすると隠しキャラがメルなのかも。伯爵令嬢は違う名前だった。


 急に胸が苦しくなった。

 私だけのメルが誰か他の人の側に行ってしまう。そんなことを考えたら、急に。


 ――嫉妬してるの? 王子に?


 でも……王子がメルを選ぶとは限らない。対象はたくさんいる。しかもメルは隠しキャラかもしれないのだ。攻略は難しいに決まってる。


 どちらにしてもメルが幸せになってくれれば、それでいい。

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