第2話

 月日は流れ、十六歳になり、いよいよ王立学園へと通う日が近づいてきた、ある日。


 子爵家のご令嬢が集まる茶会に参加していた。

 子爵家同士、交流を広げようと同じ歳の娘を持つ親たちは頻繁に茶会を開き、娘同士の交流をさせていた。今日は六人で集まっている。


 ――それで、何でこんな話になっているんだっけ?


『あと数日で王立学園に通うことになるね』という話から、何だか変な話題になっていた。


「あの、先程から攻略対象とか転生者とかって、一体、何のこと? 皆さん、何の話をしていらっしゃるの?」

「あれ? ヴィオちゃん、御存知ないの?」

「この世界はゲームの中の世界なのよ」

「え……ゲームって、何?」

「ヴィオちゃんも転生者なのでしょう? 『真実の愛を花束にして君に』っていう、乙男ゲームの世界なのよ」

「何? 乙女ゲームじゃなくて……オトメン?」

「攻略対象の令嬢方以外は皆、転生者よ?」


 ――はい? 理解が追い付かないよ?


「ヴィオちゃん、知らなかったの?」

「うん……」

「じゃあ教えてあげる! 私が転生する時、担当の神様が仰ってたの。若くして死んでしまった子どもたちに可哀想だから別の人生を経験させてあげようと転生させて、この世界に集めたみたい。だからここの転生者は高校生とか大学生くらいで死んじゃった人たちなのよ」


 ――え……何、それ?


「ねぇ! 貴女、出身どちら?」

「私はね、青森ー!」

「私は栃木!」

「地方とかだと方言直すの大変だったよねー!」

「「「「わかるぅ!!」」」」

「まぁスタート五歳からだったから、何とか教育し直して貰えたし、この世界のマナーとかもイチから学べたから良かったよね!」

「「「「ホントよねぇ」」」」


 ――ええ?


「あの……皆さんは前世での名前とか覚えているのですか? 私全然、思い出せなくて」

「ああ、それね。私の神様が言ってたんだけど。前世での知り合いに会うとバグが生じる可能性があるんだって。だから前世での名前は封じるって言ってたよ」


 ――そうなんだ。


「それよりも! もうすぐゲームスタートよね!」

「そうなの?」

「そうなの! 王立学園がゲームの舞台なのよ! 本当に乙女ゲームの男子版って感じなの」

「主人公は誰なの?」

「それはもちろん王子よ! 王子!!」

「どちらにしても私たちはモブだから、遠巻きに楽しむの!」

「「「「楽しみ~!!!」」」」


 ――モブ、ね。


「主人公の王子も転生者だよね? どんな学生だったのかな? 性格良いと思う?」

「私たちの身分じゃ、まだ直接は会ったことないものね」

「お茶会でチラッと御目にかかっただけね」

「外見はやっぱりイケメンだったよね!」

「でもさ、各ご令嬢の婚約者たちもやっぱり格好良かったよね!」

「そうなの! さすが恋のライバルよね! 私、あの騎士団長のご子息がタイプだわ!」

「私は宰相様のご子息! ああ、でも最年少で魔術師団の一員に特例で配属された御方もとても良かったわぁ!」

「貴女、クールで賢いタイプがお好みなのね」

「ふふ~」


 私が会話に入れずにいると、隣の席のエリー嬢がにこっと笑って言った。


「でもヴィオちゃんにはメリル様がいらっしゃるものね!」


 ――え?


「だって凄く大切にされてるもの」

「キラキラしてて、お美しいし、しかも伯爵だなんて。もう言うこと無しじゃない! 将来、伯爵夫人なんて本当に――」

「「「「「羨ましい~!」」」」」

「ほら! 噂をすれば、お迎えよ!!」


 相変わらずのキラキラを身に纏い、優雅な足取りでこちらに近づいてきたメルに皆が視線を向ける。


「ヴィー。そろそろ帰るよ? 皆さん、お先に失礼しますね」


「「「「「はい~」」」」」


 綺麗なメルに皆が見惚れる。メルはサラリと私の手を取ると、立たせてくれた。流れるような所作に皆の目はハートになっている。


 だけど……皆は知らない。彼は――本当は彼女だってことを。


 大丈夫。あなたの真実を知っても、私はずっと側にいる。

 あなたが私を助けてくれるように。私もあなたを助けてあげたい。護ると約束し合ったから。


 それに――私が伯爵夫人になることはない。

 婚約者でもないし、メルは私と結婚など出来るはずがない。きっと伯爵様は表向きには養子をとるだろう。そしてメルと内々に結婚させるのだ。

 そうなったら私は――メルと会えなくなる。

 きっと。


 でもそれまでは私がメルを護る。絶対に。


 ――そう、誓ったのに……。

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