第8話 彼女との日々(3)


 数分、他愛も無い話をする。


「さあ、行くわよ」

 気が付いた様に詩織はそう言うと、足を動かした。

「行くわよって、どこに?」

 雅人が聞くと、詩織は半歩で立ち止まる。

「うーん。どこに行きましょうか?」

 悩む様な顔をする詩織。

 初めて見る表情だった。

「神崎は遊びたい?」

「いや――。その……話したいかな」

「話したい……。喫茶店とか行く?」

「んー、公園はどうかしら?」

「公園?」

「ええ。佐伯くんの家の近くの公園でも」

「いいよ」

 そして、僕らは近所の公園へと辿り着く。


 彼女の最寄り駅までは徒歩と電車で二十分。

 近くも無く、遠くも無い距離だった。


 幼い頃はよく母と遊んだ公園。

 この時間になると、誰もいない暗い空間となる。


「さて」

 公園のベンチに詩織は迷わず座った。

 座る詩織の横は、もう一人が座るくらい空いている。


 待っている様な詩織の眼差し。

 どうやら、そこは僕の席の様だ。


「失礼します……」

 恐る恐る彼女の横に座る。

 改まるとひどく緊張した。

「静かなところなのね」

「うん、夜はね。昼間は大勢の子供が遊んでいるよ」

 雅人は左側に映る砂場とブランコを眺める。

 昔はその大勢の子供の一人に僕もいたのだ。

「良いじゃない。それが陰と陽だもの」


「陰と陽?」

 突然、浮かんだ様なその単語。


「輝かしい日にも、必ず暗い日もあると言う意味よ」


 儚げな言葉。

 しかし、彼女は微笑んでいた。


 まるで、彼女の日々なのだろう。

 雅人は確信した。


 学校での彼女は誰からも頼られ、好かれる存在。

 運動神経も良く、成績も優秀。

 それに加え、可憐なその容姿。


 彼女は世間の学生が求める全てを持っていた。

 それが陽の彼女。


 僕もそんな彼女のことが大好きだ。

 無論、現在進行形で。


 しかし、僕は知ってしまう。

 陰の彼女を――。


 知り始め。

 今はまだ陰の入り口。


 この先を進んで行けば、僕はもっと彼女を知ることが出来るのだろうか。


 暗い闇の様な彼女の姿を――。

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