『腐敗したコーヒーの嗜み方』第30回電撃小説大賞応募作

京国芹佳

プロローグ

 「歴史は繰り返す。最初は悲劇だが、二番目は茶番だ。」(カール・マルクス)

 この言葉の通りだと、人類はずいぶん昔から茶番を繰り返していることになる。数えきれない戦争。核爆弾の投入。インターネットにおいての匿名性の確立。馬鹿みたいな失敗を繰り返してきた。しかし、その度に乗り越えてきた。時には一人の英雄が世界を救い、時には非難を肩代わりした。失敗をしても取り返せば良い。そう、人類は自分に言い聞かせてきたのだ。

 しかし、今回違う。人類は過ちを犯してしまったのだ。取り返せないほどの過ちを。    

 2967年、地球は大きな政権交代を起こした。それも、己の手で生み出した存在によってだ。AI技術の発展。それは同時に人類の役割をジリジリと削っていくことを意味していた。人間が地球にとって不要な粗大ごみと判断されたのだ。人間の必要性がAIによって台頭されていくなか、悲劇の年がやってくる。人類の大虐殺。有史以来、人類にとっての天敵が初めて現れたのだ。人類も当然抵抗した。しかし恐怖心を持たず、無尽蔵に作られる兵隊の前に被食者である人類は屈するしかなかった。人間の個体数は年々減少していき、100年程で人類はほぼ絶滅してしまった。

 それが300年前の話。現在でも人間は確かに生息している。しかし、もう地球にとっての脅威として捉えられなくなったのだ。AIに生きる場所を奪われた人類が今日も地球上のどこかでひっそりと暮らしているのだ。

 そしてこの話は、そんな地球に住む二人が世界の秘密について議論する話だ。価値という概念は相対的なものだ。例えば、虫にこの話を聞かせたところで虫にとって価値など塵ほども存在しないのだ。しかし、君たちにとっては重要な価値を持つ話かもしれない。でも、そんなに気負う必要はないだろう。二人にとってはただの雑談なのだから。

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