【弐拾伍】どろぼう猫の食あたり19

 桃のいたビルと双子のように並んだビルの十四階。そこも建設途中で何もないが、桃のいたビルとは違いコンクリートに囲まれひとつの部屋となった空間があった。

 そこには木製椅子が一つとその椅子前には四つの人影。椅子に座らされていたのはマノンで両手を肘置きに両足は前脚に縛られており口はテープで雑に塞がれていた。その表情は当然ながらと言うべきか不機嫌そう。


「うひゃっへっへ。こんな楽の勝なことで金が貰えるなんてよ。ひゃっへっへ。今回の仕事はちょろすぎのすぎってもんよ」


 甲高い声で下品に笑うのは骨と皮しかないのかと思わせるほどガリガリで肌は不健康そうな色合い。歯並びはガタガタ、半ズボンだけを穿いており裸足。そして真っ赤なモヒカンをした男だった。

 そんな赤モヒカンはエメラルドグリーンの宝石を真上に投げてはキャッチ、投げてはキャッチを繰り返していた。


「しかも金もいいしナ!」


 そう反応したのは見た目は全く同じだがただ一点だけ、モヒカンの色だけが違いこちらは真っ青。その他の者も見た目は同じだったがモヒカンの色だけが、真っピンク・真緑と違っていた。


「んん! んっんん、んんんん!」


 テープの障壁に阻まれた言葉はただの音としてしか外界に出られず、本来の役目である意思疎通を果たせずにいた。


「はぁ~? なに言ってるのか、ずぇ~んずぇ~んわかりませぇ~ん」


 赤モヒカンは何かを叫ぶマノンに対し怒りを一括払いで爆買いする程の煽り声と表情浮かべて見せた。案の定、一瞬で頭に血が上ったマノンは動けないと分かっていても体を動かして暴れ、言葉にはなっていないが恐らく罵詈雑言を言っているのだろう。


「ぎゃひゃっひゃっ! それは煽り過ぎだってーの」


 そんな赤モヒカンの煽り具合を横で見ていた緑モヒカンは腹を抱えて笑った。それはピンクモヒカンと青モヒカンも同様。

 すると、甲高い笑声が縦横無尽に駆け巡るその部屋へ本来なら壁か窓がある部分から人影が豪快に侵入してきた。それは桃。斜め上から落ちてくるように入ってきた桃は衝撃を分散させる為、転がりながらも一気に四人のモヒカンとマノンへ接近。


「なっ! なんだこいちゅ」


 一驚に喫する余り言葉を噛んでしまうピンクモヒカン。

 一方、しゃがんだ状態の桃は鋭い眼光で部屋を一見し状況を瞬時に判断した。

 そしてスタートダッシュのように立ち上がりながら走り出し一番手前の緑モヒカンへ接近。と同時に身を回転させながら横蹴りで鳩尾辺りをひと蹴り。桃の突然の登場に対する動揺により防御のぼの字も出来なかった緑モヒカンの体は蹴りにより飛ばされ後方の柱へ激突した。

 そして横蹴りをした後はもう自分が敵であると理解したはずの他のモヒカン達からの攻撃に備える桃。その判断は正しく緑モヒカンは取り出したポケットナイフを手に襲い掛かってきた。


「こんにゃろぉぉぉぉ!」


 しかし素人同然のただ振り下ろさだけのポケットナイフに脅威性はなく、その手を内側から容易に掴むとそのまま反時計回りに腕を捻る。人型の構造上、外側に捻られた手はポケットナイフを握り続けることが出来ず簡単に手放させた。落ちたポケットナイフをマノン側に足で蹴ると、流れるように武装解除させた緑モヒカンの両足を掬い床へ倒す。

 そして背中から無抵抗で落ちた緑モヒカンから手を離すと、横から振り下ろされたレンチを躱し、すれ違いざまに赤モヒカンの背を受け流すように突き飛ばした。

 直後、足に手を伸ばしてきた先ほど転ばせた緑モヒカンの顔を容赦なく一蹴。


「ぐわっはっ!」


 鼻は曲がり(物理的に)鮮血を宙にまき散らしながら顔を上に向けた緑モヒカンの体は、腰辺りを中心に時計回りで少し回った。

 そして足元の緑モヒカンを蹴った後に正面を向くと、青モヒカンが恐怖かそれともヤバい薬の類の所為か震える手で自動拳銃(形状からVTQ)を握り銃口を桃へと向けていた。

 だが引き金を引くより、勝ち誇った言葉よりも先に――まず銃身へ真っすぐ手を伸ばし内側から掴むと若干捻りながら銃口を逸らす。そして下から潜り込ませたもう片方の手で反対側からハンマー辺りを握るとほぼ同時に股間を蹴り上げた。

 それにより相手が片膝を着くと腰・体重を利用して銃をコントロールしながら手首を捻り、それから銃を奪い取り逆に銃口を突きつけた。


「どんな時でも油断は禁物ですよ」

「へっ! てめぇもな」


 その言葉は強がりなどではないことを証明するように桃の背後にはレンチを構える赤モヒカンの姿が。

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