【弐拾肆】どろぼう猫の食あたり18
二人は高速道路を利用し、休憩も取りながら移動を続け――昼過ぎ頃には東京へと戻って来ていた。
まだ時間もあり、お昼も食べていないということでAOFに戻る前に食事を取ることにした二人。適当なお店に入ると桃は魚定食をマノンはカツ丼を注文。そして米粒ひとつ残さず食べるとちゃっかりデザートまで堪能した。
そして桃の奢りということでマノンは先に店の外へ。少しして会計を済ませ売っていたコーヒーを購入した桃が来店のお礼を言うように自分の為に開いてくれた自動ドアを通り外へ。
店前のガードパイプに腰掛け桃を待っていたマノンはその姿に立ち上がろうとした――が、突然マノンの真後ろへ黒いバンが停車したかと思うと後部座席のドアが開き、中から伸びてきた手によりマノンは車内へと引きずり込まれていった。
そしてあっという間にドアが閉まるとバンは一目散に走り去る。余りにも突然で一瞬の出来事に桃はバンが発進するまで固まってしまっていたが、走り出したのと同時にハッと我に返り動き出した。
バンを追いガードパイプを飛び越え道路に飛び出した桃だった走り去る黒バンを止める術は無くその後ろ姿を見守るしかなかった。そんな桃を邪魔だと後ろからクラクションが怒鳴る。
轢かれぬようにすぐに歩道に戻るとスマホを取り出しどこかへ電話を掛け始めた。
「はいはーい。こちらホワイトウルフ。ただ今、ゲーム中により手が離せませーん」
「至急追跡してほしい車があります。お願いできませんか?」
初めはおちゃらけた様子だったが桃の切羽詰まった声を聞きすぐに様子は一変。
「情報は?」
「黒のバン。ナンバープレートは世田谷三〇一 と八四三-二三。つい先ほど走り去ったので私の現在地からまだ遠くには行ってません」
「探してみる」
「私も追いかけますので見つけ次第位置を送信してください」
「りょーかい」
「よろしくお願いいたします」
電話をしながら車まで戻っていた桃は通話を終えると乗り込み、モニターを操作してスマホと連動させた。その後にエンジンをかけ素早く出発。バンが最後に曲がった角をなぞるように曲がり直進しながら連絡を待つ。
するとホワイトウルフだろう、突然モニターにカーナビが表示され、そこには中央に赤点そこから道を示す赤い線が伸びた。その赤い線はモニターだけではなくフロントガラスにも半透明で表示されており次の交差点を右側へと道を示している。
それを確認した桃は線から交差点の信号へ目を移すが、タイミング悪く青から黄色へと顔色を変えていた。
「危険ですが仕方ありません」
そう呟くとスピードを上げ交差点に近づいていく。そろそろ黄色から赤色に変わろうかというタイミングで交差点に進入するとまるで自分の手足のように見事なドリフト走行で右折した。
そしてそれからも出来る限りスピードを落とさず赤線を頼りに黒いバンを追い続けること三十分。この三十分間、より速くかつ他の一般車への安全に出来る限り配慮して運転していた桃の集中力は凄まじいものだった。
そして三十分後。カーナビには今まで画面外だった目的の赤いマークが姿を現した。
そこにあったのは建設現場。何らかの理由で建設が中止されたのか作りかけビル(高さは凡そ二十階)が二つ平行に並び、敷地内にはクレーンや鉄骨など様々なモノが残されている。
そんな建設現場内に入り既に停車していたバンの後ろに停めると桃はスマホレットの一部を外し耳に付けた。スマホレットにはワイヤレスイヤホンが嵌め込まれておりそれを耳に付けることで通話や音楽を聞くことが出来る。
ワイヤレスイヤホンを付けた桃はそのままスマホレットを操作しホワイトウルフへ電話を掛けた。その間に降車。
「バンの場所には着きました。ここのどこにいるか分かりますか?」
そう言いながらバンの中を覗く。
「えーっと。その敷地内にあるスマホを使わせてもらって……。十五階ぐらいかなぁ。なんでかわかんないけどなんか正確性に欠けてるみたいなんだよね」
「それはどっちのビルでしょうか?」
「多分……右?」
自信の無さが十二分に伝わる声だったが、桃は迷わず彼女の言う右側のビルへ向かった。ビルには一応エレベーターが設置されていたが動いているかは分からない。
「頼みます」
そう願いを託し上向きのボタンに触れるとそのボタンは光を放ちエレベーターのドアが開いた。まさか開くとは思っておらず吃驚しながらもすぐにエレベーターに乗り込む桃。
「もう中止されているようですが一体どこから電力が来ているんでしょうか?」
「まだ仮設電気が残ってるみたいでそこから流れてるね。何でまだ流れてるかは知らないけど」
「そういうことでしたか。建設担当者の怠慢でしょうか。もしくは先にこの場所を訪れた黒いバンの人達が起動したかですね」
会話をしているうちに目的の十五階に着いたエレベーター。ドアが開く前に桃は端に身を顰め開くと同時に攻撃されても大丈夫なようにと少し様子見できるようにした。
だがドアが開いても物音ひとつ聞こえず顔を出しフロア内を覗くが、等間隔のコンクリート柱しかなく人っ子一人いない。
「あっ。ごめん。隣のビルの十四階だったみたい」
桃の心を読んだかのようにイヤホンから聞こえてきた声に桃はまだ壁も窓もない開放的な端に進んだ。そこから隣のビルを覗くと彼女の言う通り隣の一つ下の階には人影のようなものが見えた。
「ハッキリと確認はできませんが居そうな感じはしますね」
またエレベーターに乗り隣のビルに行き直し再び上がると時間が掛かってしまう。桃は他に方法はないか考え始めた。
まず使える物はないか辺りを見渡す――何も無し。次に身を乗り出し高さと隣のビルとの距離を確認した。
「落ちたら死にますね。隣との距離は大体八メートルといったところでしょうか」
桃は十秒程度その場で考えを巡らせ――そして決断を下した。
「若干の賭け要素はありますが多分大丈夫でしょう」
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