【弐拾参】どろぼう猫の食あたり17

「あとは返すだけらしから何もないと思うけど何かあったら妹のことはよろしね」

「お任せください」

「まぁあの子も自分の身は自分で守れると思うけど一応ね。心配だし」


 二人が話をしているとキーを持ったマノンが戻ってきて桃の隣に並んだ。


「これか?」


 ソフィアに見せたのはシンプルだが宝石でコーティングされ高級感溢れる手の平サイズのスマートキー。既にそこから企業のこだわりが見られ、裏側の真ん中には四角くルビーが填め込まれその中に大きなロゴと車種名が書かれていた。表は表面がタッチパネルとなっており色々な機能があるようだ。


「それよ」

「じゃ借りてくわ」

「表のゲートと倉庫の扉は開けておくわね。それとカバーはそこら辺に適当に置いておいて」

「おぅ、さんきゅーな。そんじゃ行くか」


 すっかり眠気も吹き飛んだ様子のマノンは桃の肩へ強めに手を乗せた。


「そうですね」

「じゃーなー姉貴」

「気を付けるのよ」

「おぅ」


 ソフィアに手を振りながら歩き出すマノン。


「では、失礼いたします」

「ドライブ楽しんで」


 そして桃もマノンの後に続き、簡単な生活空間となった場所の少し奥の方にあるボディカバーを被った車の元へ向かった。


「お前、運転できるか?」

「えぇ、できますよ」

「そんじゃよろしく。俺ねみーし」


 そう言って手に持っていたキーを桃の方に山なりに投げたマノンの中には、未だ睡魔が健在だったらしい。

 それを片手でキャッチしたところで車まで来た二人は運転席側と助手席側に分かれた。


「そのような状態で運転されては怖いですからね。分かりました」


 そして車を挟み立ち止まった二人はそれぞれボディカバーのフロント部分に手を伸ばすと同時にそのカバーを外した。

 カバーの下から姿を現したのは、白と黒のシンプルだが故のカッコよさをもつスーパーカー。


「――素晴らしい」


 桃は思わず感動に浸した言葉を零す。

 そして一歩後ろに引き横からその外装を拝んだ。頭からルーフにかけ上りそこからお尻にかけて下りていくその滑らかなラインは美しく、ドア部分に創り上げられた起伏と合わせると、最早それは芸術。そこから足を交差させながら正面に回っていくと、逆三角のヘッドライトとバンパーの勇ましい表情から頼り甲斐を感じる。


「おい。早く行こうぜ」


 助手席側に立っていたマノンの急かすような言葉が見惚れ気味だった桃を我に戻した。


「申し訳ありません」


 一言謝りながら運転席側に戻りドアノブを引くとゆっくりと開くドア。どうやらバタフライドアらしい。

 ドアが開くとシートから何まで落ち着いた雰囲気だがそこがエレガントで高級さを感じさせる車内に乗り込む二人。シートは見た目もさることながら体を包み込むような座り心地は抜群で、適度なリラックス感を与えてくれる。そして乗り込んだ後にシフトレバー下のタッチパネル中央にあるキーと同じ窪みへ、先ほど受け取ったキーを填め込めば……。

 メーターパネルとセンタークラスターなどが起動し車が目を覚ました。パネルに現れたボタンをタップすると運転席側と助手席側のドアがゆっくりと閉まっていきその間に二人はシートベルトを締める。

 そして桃がハンドルの奥へ目をやるとそこには既に鍵が差さっている、というより一体化した部分があった。


「ここを回してエンジンをかけるのですか。中々物好きですね」

「自分で操作してる感じが好きなんだとよ」

「その気持ち充分理解できます」


 そう言いながら鍵の部分を捻るとエンジンが掛かりその振動が心地よく体へと響く。

 するとそのエンジンに反応するように正面の大きなドアが左右へ開き始めた。


「出発してもいいですか?」

「いつでも」


 そして余計な爆音のないまるで王者のようなエンジン音を倉庫内に響かせながらスーパーカーは発進。そのまま倉庫を出て正面ゲートに向かうと、この場所に来た時には上がっていたゲートボラードがソフィアの操作により既に地中に潜っていた。

 そしてゲートを通過し元埠頭を出たスーパーカーはそのまま目的地に向け走り出す。途中からマノンがセンタークラスターにあるモニターを操作し車内には音楽が流れ出した。その音楽とエンジン音をBGMにスーパーカーはAOFへと向かった。

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