【参拾柒】どろぼう猫の食あたり11
今日だけで四回目となる移動で九十分ほどかけ到着した場所。その周辺には民家や商業施設などといった建物が全く無く、ぽつりポツリと立った道路照明灯が唯一の光源となっていた。
そして教えてもらった住所の位置は、周囲と一線を画すように壁で囲われていた。しかし道路部分には両車線とも顔を出している垂直降下式ゲートボラードがあり、道路を挟むように左右には警備室と思われる小屋が建てられている。更にその道路から少しずれた左手には人用の出入り口である電子ロック付きドアが一枚。
桃は道路に立ち車両の出入り口から中を覗き込む。照明灯などの光は無く真っ暗だったが、大きな倉庫のような建物とガントリークレーンがありだだっ広い場所だということは何となく確認することが出来た。
「埠頭のようですね。いえ、だったと言うほうが正しいでしょうか」
「ほんとにここにいんのか?」
「連絡もありませんしまだここにいると思います」
するとスマホレットがメッセージを受信したことを知らせた。その場で視線を落とし確認するとそれはホワイトウルフからだった。
『一番手前の倉庫にいるよーん』
桃はメッセージを読むと上を向き辺りを見回し始めた。そして小屋の壁に設置された監視カメラを見つけるとそこで視線を止め、そのカメラに向かって一礼。カメラ越しにお礼を告げた。
それに答え上下に動くカメラ。
「行きましょうか」
そしてボラードを避けて元埠頭に入ると一番手前の倉庫へ二人は近づいて行った。
その大きな倉庫は側面上部に横長の小窓がいくつかあり、正面には大きなシャッターと横の方に人間が出入りするためのドアが設置されていた。だがシャッターもドアも閉まっており中の様子は分からない。
「まずは中の様子を確認したほうがよさそうですね」
「で? その方法は?」
「側面にあった窓から簡単ではありますが覗きます」
桃はそう言いながらポケットから’F’取り出し起動した。’F’は桃の元を離れると一直線に側面にあった窓へと向かう。その映像はスマホレットからリアルタイムで確認でき’F’を通じて倉庫内を確認した。
中は窓から差し込んだ三日月の月明りしか照らす光りがなく誰かがいるとは思えないほど暗い。’F’は位置を変えながら中を覗くがただ空っぽの広い空間で人気が無いと言う事しか分からなかった。
特に何の情報も得られず仕方なく’F’を呼び戻した桃は念の為にステルスモードにしておくことに。
「詳細は中に入らないと分からなそうですね」
「よーし! そんじゃ俺様の華麗なるテクニックでこのドアのロックを」
そう意気揚々にドアへ近づいて行ったマノンだったがドアに鍵はかかっていなかった。
「ったくなんだよ。不用心だな」
「やはり誰かいるのでしょうか」
刀を持ってきていなかった桃は何か武器になる物はないか周辺を探すが何もない。仕方なく手ぶらでマノンと代わるとゆっくりドアノブへ手を伸ばす。
「確かミィシャルは暗闇でもよく見えるんですよね?」
ドアを開ける前に思い出した暗闇でも僅かな光(今回は月明り)があれば明るく見えるミィシャルの特徴を確認の為に尋ねる桃。
「そうだな。実際今もそんなに暗くねーし」
「では中で人影が見えたら教えてくれませんか?」
「おう。任せろ」
真っ暗だった外にいた桃の目も既に暗闇に慣れある程度なら見えるようになっていたが、ミィシャルの方が見えているということは確実だったので彼女の目を頼ることにした。
そして武器はないが細心の注意だけを持ってドアを開き中へと足を踏み入れる。中に入りまず感じたのは温度の変化だった。外と違い温かく過ごしやすい室温。そして視界的には’F’で確認した通り小窓から入ってくる月明りだけで心細く暗い。忍びの如く静寂に紛れかつ慎重に一歩一歩足を踏み出しながら、些細な動きすら見逃さぬよう辺りを警戒する。
倉庫内には小窓からは確認できなかったが入ってすぐ左手にドラム缶が一つあり、あとはスーパーカーらしき車が一台停まっていたが暗闇の所為で色までは確認できなかった。だがほぼ高確率であのスーパーカーだろう。
そしてドアから四歩か五歩ほど歩いたところで――
「止まりなさい」
命令口調だがどこか優しく色気を纏い、大人びた女性の声が後ろから指示を出してきた。それに加え不審な行動を許さないという警告か頭に銃口が付きつけられる。
二人は揃って抵抗しないという証に両手を上げた。
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