【弐拾弐】AOF18

「よくやった桃」


 通話を終え一拍ていど空けて西城は桃の肩を嬉しそうに叩いた。


「これでこの事件も片付きそうだ」

「受け渡しの場所はどうしますか?」

「それはこっちで準備しておく。それとそのスマホはお前が持っておけ。あちらさんから連絡がきたら対応は頼む」

「分かりました」

「そんじゃ、事務所まで送ってやる」


 上機嫌な足取りで車へと歩き出した西城とその後に続く桃はスマホをポケットに仕舞い、更にその一歩後ろを蘭玲が追う。

 そして三人が乗り込んだ車は石神家を出発し、暫くしてAOFへと到着した。


「そんじゃ、準備が整ったらまた連絡するからな」

「分かりました。こちらもいつでも大丈夫なように準備はしておきます。では運転ありがとうございました」

「じゃーねー西城さん」

「おぉ。じゃーな」


 軽く手を振り返し、西城は車で走り去って行った。

 そして翌日。西城から連絡が入ると桃はそれをあのスマホの相手へ伝え、受け渡しは三日後に決まった。




 それは都内でも有数の高級ホテルであるラナンホテルの一室。高級と名の付くだけあって照明やベッド、絨毯に至るまでその内装は豪華でありながら品格を兼ね備えていた。

 そんな室内では桃と蘭玲、西城とその部下四人、高見がこれから行われる受け渡しの準備を進めていた。桃はいつも通りスーツを身に着けていたものの、その他は高級ホテルにはあまり似つかわしくない格好。

 ベッドに置いてあった刀の横に座る桃。その傍らには眼鏡をかけ背中にEOCBと入ったコーチジャケットを着た気の弱そうな男性がおり、その手には蓋の外されたジュエリーボックスのようなものとピンセットを持っていた。そこに入っていたのは人差し指に乗るほど小さなシールのようなモノ。


「これを通じてこちら側の声が聞こえてきます」


 男は受信シールを指差し説明するとピンセットで摘まんだ。


「ではこの受信シールを耳の中に張らせていただきますので動かないでください」

「分かりました」


 一本線のを引いたような姿勢でじっと座る桃の耳の入り口側面に受信シールを丁寧にそっと張る。


「では動作確認をいたしますのでこちらを」


 男が手渡したのはヘッドホン。


「私の声が聞こえたら返事をお願いします」

「はい」


 ヘッドホンを付けると男はワイヤレスのハンズフリーイヤホンを片耳に付けた。


「テスト。テスト。聞こえますか? 聞こえたら右手を上げてください」


 右側から聞こえてきた男の声に右手を上げる桃。それを確認した男からの返事に桃はヘッドホンを外し手渡した。ヘッドホンを受け取りイヤホンを外した男は部下に指示を出す西城に一言かけ、監視カメラの映像などを準備している他の仲間へ合流。

 男から完了の報告を受けた西城は桃の元へ足を進めた。


「そっちの映像と音声は”F”を通して確認する。まぁ、自白が取れればベストだな」

「もう逮捕はできるんですよね?」

「あぁ、問題ない。だがその方がのちのちが楽だからな。それとお前なら大丈夫だと思うがいつでも突入できる用意はしておく」

「分かりました」


 すると部下から呼ばれた西城はその場を離れ、そんな彼と入れ替わるように次は蘭玲が桃の前へ。


「これでこの依頼は終わりですね」

「そうですね。ですが最後まで気を抜いてはいけませんよ」

「でもアタシのやることはもうなさそうですし」

「それは分かりませんよ。もし私に何かあったら、その時は頼みます」

「任せて下さい! って言いたいですけど桃さんに何かあるなんて無いですから」

「桃さん。そろそろ移動お願いします」


 高見にそう言われた桃は立ち上がり身なりを整える。


「蘭玲。その刀を持っててもらえますか?」

「はい。分かりました」


 桃はベッドに置いてある刀を指差し、蘭玲は快く了解すると刀を手に取り宝物のように抱きかかえた。


「よーし。そんじゃ、さっさと終わらせるか。頼んだぞ桃」


 横に並んだ西城は気合を入れるように肩を少し強めに叩く。


「分かりました。では行ってきます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る