【陸】AOF4
そんな二人が何軒か回った後、向かったのはとある中華料理店。中はあまり広くなく少し薄汚れ、時間帯の関係なのか客はいない。店内自体はエリアLの外にあるお店とあまり変わりなかったが、一つ明らかな異質がそこにはあった。
それは左耳だけピアスをし中華コートに三つ編み、変面のような仮面をつけた店主がカウンターに立っているということ。
「チェンさんお久しぶりです」
「桃か。ここに来るとは珍しいな」
仮面の向こう側から聞こえてきたのは透き通り冷静沈着な声。声だけ聞けば若さが伺える。
「仕事です」
「どうせEOCBからだろ?」
「依頼人のことは話せませんよ」
「奴らはここじゃあまり派手に動けないからな。最悪後ろから刺されるか撃たれる。だからお前を利用するんだ」
「後ろから刺される危険性はEOCBだけでなくこの場所にいる全ての人々にあります。もちろんあなたも例外ではありませんよ」
「それは否定しない。それで? 今日はどうした?」
「最近、この辺りでこの少女を見かけませんでしたか?」
桃はスマホレットから依頼された少女の写真を出力し見せた。二秒三秒と仮面の顔を近づけたチェンだったが、これまでの人同様に首を横に振った。
「知らんな」
「では最近少女や子どもを引っ攫ったなどという話は聞きましたか?」
その質問にチェンは溜息を零した。
「ここでそんな話が珍しいと思うか?」
「そうでした。失礼」
桃はその言葉にうっかりと笑みを浮かべた。
「それだけか?」
「今のところはそうですね。もし何か手がかりになりそうなことを耳にしたら連絡宜しくお願いします」
「あぁ、分かったよ」
「では」
そして会釈をし店を後にしようとした桃だったが。
「待て。久しぶりに来たんだ。何か食ってけよ。連れの女も腹空かせてないのか?」
「桃さんの連れの女……」
蘭玲はそう呟くと少し表情を輝かせる。
「――そうですね。いただきましょう」
そう言うと桃は少し空いた腹でカウンター席に着いた。
「アタシ炒飯が食べたい! あと、餃子と小籠包!」
桃より少し遅れて隣に座った蘭玲は手を挙げながら遠慮など感じさせない注文した。
「ここへ来る前にハンバーガーを食べたでしょう。まだ食べれるんですか?」
「ここに入った時からいい匂いがしててお腹が空いてたんです」
「あなたの食欲には驚かされますね」
「桃。お前はどうする?」
「そうですねー。――ではラーメンを」
注文を受けるとチェンは早速作り始めた。
「チェンさんの料理はとても美味しいので期待して待っててもいいと思いますよ」
「そうなんですか! 楽しみです!」
「あんまりハードルを上げるな」
「大丈夫ですよ。それほどにあなたの料理は美味しいのですから」
それはお世辞などではなく心からの言葉だった。
「その言葉はありがたく受け取っておく」
「まだ外で店をする気はないんですか? あなたの料理が外で食べられるのなら喜んで支援させていただきますよ」
「何度も言わせるな俺はずっとこの場所でいい」
「そうですか」
残念そうに返事をした桃は置いてあったピッチャーを手に取り二人分の水を入れた。
それからしばらくしてラーメンと炒飯の食欲をそそる匂いが店内に広がる。
「はいよ」
器に入った味噌のスープと麺を覆い隠すほど乗せられた野菜の味噌ラーメン。半球体型に盛られた卵やネギなどの具材と混ざり合ったシンプルな炒飯。箸に掴まれた麺を一気にすすった桃は咀嚼しながら口角を上げる。そして蓮華山盛り乗せた炒飯を口に入れた蘭玲の表情はまるで宣伝の役者のように花を咲かせた。
「やっぱりチェンさんのラーメンは美味しいですね」
「味噌はお前のために始めたようなものだからな」
「ありがとうございます」
そんな二人の会話の横で蘭玲は美味しそうに黙々と炒飯を掻き込んでいた。
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