授業中の動揺
さて、ここは学校なので、時間が経つと授業が自ずと流れていくわけだ。そして、学制である限りはその目線が授業の方へと強制される。勿論、その制約を振りほどく術などは様々あるわけで、結局のところは授業を傾聴するか否かということは個人の自由意思に基づくところであるのだが、それでも僕の僕の自由意思に従って授業を常日頃より真面目に聞いている。
しかし、今日はどうもそうはいかないようだ。僕の自由意思が自由意思を拒絶しているわけではない。むしろ、自由意思が何かに拒絶されているのである。全く授業に身が入らない。僕が僕でないかのようである。
ところで、集中力が切れた人間というのは、えてして視線が散乱するものである。そして、残念ながら僕も例外ではないらしい。あれやこれやと周りの事物に目が行くのである。
そして、以上のことを踏まえると、自然の摂理というべきなのだろうが、奇遇にも僕の目は右隣の神代を捉えてしまった。神はサイコロを振らないのではなかったのかと考えたり、それは間違った解釈だったかと反省してみたりする。しかし、僕の意識は自由意思に背いて神代の方へと向いている。どうしたものかと我に返り黒板を見てみると、そこにはつまらない数式が羅列されている。それをとりあえず手元のノートに写し取るも、それ故か神代のことが頭によぎる。
「じゃあ、この問題を……、神代」
などと邪念——僕からすれば邪念以外の何物でもない——が僕の脳味噌の稼働領域を占めていると、先生によって諸悪の根源が指名された。僕までもがビクリとしてしまう。
「…………」
神代は立ち上がり、黒板の上で目線を右往左往と滑らせる。勿論、僕の座席からは神代の目線を追うことはできないが、その動揺具合は察せられる。
「大丈夫か神代。今日はぼーっとしてるな……。34ページの問3だぞ。じゃあ隣いって菅原、代わりに答えてくれ」
見かねた先生は選手交代を命じ、僕がマウンドに立つ羽目になる。
34ページの問3にサッと目を通す。簡単な展開の問題だ。これくらいなら暗算でも解ける。
「えーっと。えっくすのさんじょうまいなすろくえっくすのにじょうやいぷらすじゅうにえっくすわいじじょうまいなすはちわいのさんじょう、です」
問題はごくごく簡単な問題であったが、答えに詰まってしまった。ありとあらゆる記号が脳味噌の表面を滑っていた。
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