自分のバグと「世界」のバグ
翌朝、大量の蝙蝠に襲われる夢を見て目が覚めた。最悪の寝覚めだ。
時計を見ると6時40分。急がないと朝食を食いっぱぐれることになると判断できた僕は、食堂へと急いだ。
「よう真理。今日は遅かったな」
階段を降りると、そこで士堂に話しかけられた。
「すまない、少々寝坊してな」
対して僕も断りを入れておく。
そこで、ふと、とあることに気が付く。
「あれ、神代は?」
今までなら士堂といたはずの神代がいないのである。
「ああ、アイツなら遅れるから先に食べてていいって言ってた」
「了解」
指導の解答に即興の相槌を打ってみるも、どうも正体の分からぬ違和感に付きまとわれているようにも思われた。
「じゃ、順番回ってきたし注文するか」
「だな」
僕の疑問を帳消しするかの如く士堂は食堂へと僕をいざなった。
食事が終わってみて振り返るに、違和感が2つある。まず、神代が結局来なかったということ。そして、士堂がチュートリアルの話を一切しなかったこと。
まあ、このような違和感は単なるコップの中の嵐に過ぎない。さらに言うと、僕がチュートリアルをクリアできなかったことなんて蠅みたいな話だ。つまり、広い話をすれば今日も平和だということだ。
「なあ、今日くらいいいだろ?」
「だから私にも予定があるから」
「そこを何とか……」
などとオプティミズムに無理矢理ダイブしようとしていた僕の理想を打ち砕くかの如く、ややこしげなやり取りが聞こえて来た。寮の建物を出たあたりである。
そちらの方を見てみると、そこにいるのは2人の人物である。当麻学園の制服に身を包んだ男女だ。
男子生徒の方は下心ありげな感じで女子生徒の方へと迫っていて、女子生徒の方は笑顔を顔に浮かべつつも迷惑を被っているようにも見える。周りを見ると、他の当麻の生徒は何食わぬ顔で見て見ぬふりをしながら素通りしようとしている。薄情なものだとその様子を客観視してみる。
しかし、運が悪いことに、僕のストレスは昨日の今日で溜まりきっていたらしい。そして、ちょうどそこに勝手の良い捌け口が見つかってしまったというわけだ。
「阿呆なことを……」
気が付けば、僕はその男の目を見てそう呟いていた。
「……真理?」
後ろから士堂の呆気にとられた声が聞こえて、そしてようやく僕は正気を取り戻した。
「あ? 何だてめぇ!?」
だが時すでに遅し。男子生徒の方は怒りが心頭に発していた。
この期に及んでは、状況判断など何の意味もなさない。じっくり状況判断をしている間に事が切れてしまう可能性もあり得るからだ。
とりあえず素直に謝るしか術は……。
「すみません、つい……」
「ついとは何だ!」
その怒号に震え上がる余裕もなく、僕の頭には砕け散るような衝撃が与えられていた。そして、僕は膝をついて倒れて……。
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