第14話 げんかいがあったとしても

「さて、となると今後の事を二人を呼んで話さないと」

 

 決意と共に俺・山田やまだ憂治ゆうじが呟く。 

 するとカミトさんは、笑顔のままで何故か困っているように眉を顰めた後、呼び掛けるように言った。


「……。えーと、大体の話は聞いてましたよね?」


 何を、と思って、カミトさんが声を掛けた方向を見ると、廃墟の陰から二人が――宮高守みやこもり懸斗けんととアリスがちょこんと顔を出していた。


「君らずっと聴いてたのか……?! カミトさんも気付いていたんですか?!」

「ええ」

「いや、うん、姐さんもそうしてていい言ってたしいいかなぁって」

「ですわ」

「アホかー! 話し難いから二人きりって話だったのに、存在知られてたら意味ないだろうがー!!」

「あ、いえ、視覚的に見えなかったから話しやすかったのは確かですし……」

「んぐぐ……なんか責任をぶん投げられたのに勝手に回収されたような、納得いかない感じだ……」


 元の世界で同じような事をされていたら……少し前の俺だったら、きっともっと不機嫌になっていただろう。

 だけど状況が、相手が違えば、こんなにも……むしろ楽しい気持ちになると改めて思い知る。

 かつての俺がいかに余裕がなかったかを――そして、いかに自分で自分の余裕を奪っていたかを。


 俺が元の世界で辛かったのは、周囲が決して悪かったわけではない――あの時と同じ結論を、今はまた別の気持ちで導き出す事が出来た気がした。


(……ごめんなさい)


 小さく頭を下げて、当時俺の周囲にいた人たちにささやかに謝罪する。

 俺は俺が思う以上に、愚かだった。弱かった。いつか会う事が出来たなら改めてちゃんと謝りたいと思う。

 そんな時が来るのかは……正直分からないが。


「憂治君?」

「あ、なんでもありません。さて、問題は火竜だよな」

「負けるつもりはありませんが、厄介なのは事実ですわね。

 神具しんぐでも使えればいいんでしょうけどね」


 神具。それは魔法や魔術の到達点。

 個人の得意とする魔の力の結晶体にして究極の具現――らしい。

 しかし、ただ得意な魔術を極限まで鍛えても使えるかどうかは未知数。

 何かしらのきっかけ、気付きがあって初めて到達出来るとされている。

 ――まぁ、レベルがそう高くなくて、魔法や魔術の習熟もまだまだな俺達には縁のない話だけど。


「無理言うなよ。

 そう言えば、憂治、あの野郎に地味にヤバい事言われたよな……大丈夫か? ショック受けてないか?」

「えと、その、レベルに関係なく出来る事はありますし、ユージの強化はかなりのものですし、そのえっと、きっと、これから先レベルが上がらなくても大丈夫ですわ、ええ」

「ありがとう二人共。

 でも正直怒りの方が先に立ってたし、そんなにショックは……まぁショックだけど、元より覚悟してた事でもあったから」

「覚悟?」

「最近伸び悩んでたから、そうかもなぁって思ってたし。

 それに、そういう成長限界、みたいな、努力でどうしようもないものがあるのは知ってるからね。

 フィクションでも、現実でも」


 実際、二人と違ってレベルが上がり難くなった事、強化と回復以外の魔術を覚えようとしてままならなくなった辺りで薄々は気付いていた。

 俺は、カミトさんのようには強くなれないんだと。


「でもだからって、何もできないわけじゃない。

 色々学んでいったらできることもまだまだあるよ、きっと」


 だけど、そうなれなくても……俺はきっと望む強さを持つ事が出来る。

 元の世界で出来なかった魔法を身に付けられたように、あの路地裏で知ったように、自分の幅を広く出来たら、世界を広げて、強くなれる事を俺は知っている。

 今まさにカミトさんが頷いてくれているのだから、間違いないと力強く思える。

 

 あの日貰った呪文は、まだ消えていない。


 ただ、それはそれとして現状の問題は別である。


「しかしそれはそれとして三日じゃ最後のレベルアップは難しいし、新しい技術を覚えるのも難しいな……どうしたもんか」

「ふむ。一つお聞きしたい事が」


 そうして俺達が考え込むと、小さく挙手しながらカミトさんが言った。


「件の火竜ですけど、貴方達の世界でのゲームには登場していましたか?」

「ええ」

「一応中盤のボスという立ち位置でしたわね。レベル57が事実ならちょうどその辺りだったような」

「結構強いけど、準備すれば低レベルクリアもできなくはないらしいよな。俺はやった事がないけど」

「攻撃パターンやタイミング、手段などは分かってる、そういう事ですよね。

 ……私が関わった頃からかなりバージョンアップされているようですね」

「シリーズは増えて、歴代作のリメイクは何度かされてますから」

「かなり詳細に再現されるようになって、それに間違いがないのなら……これはいけますよ。

 勝ちの目は十分にあります」


 普段は遠慮や謙遜、やんわりした表情が多いカミトさん。

 そんなカミトさんがこうも自信満々な表情の時、それは勝利を間違いないものと、揺ぎ無いものと確信している時だと俺達は知っていた。


「まず互いに情報のすり合わせをしましょう。

 それから三日間しっかり練習して……あの男に吠え面を……ごほん。

 あの男にしっかり謝らせましょう」

「はい」

「おうともさ」

「やってやりましょう」


 誰かともなく差し出した手に、全員が手を重ねて、頷き合う。

 懸斗は相変わらず微妙に視線を合わせられないけど、心は確かに合わさっている事に間違いがない事を、この場の全員が分かっていた。

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